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これまで油絵を描いたことのない方を中心に、油絵具に触れる体験と、展示室での鑑賞を組み合わせたワークショップを行った。まず、参加者に油絵具に対してのイメージや、普段の制作について話していただいた。油絵具には比較的厚塗りや塗り重ねができるイメージがある、普段の制作はデジタルだが動画を見て油絵に興味を持ったなど、色々な声があった。
次に、油絵具の酸化重合で固まる性質や、画用液、キャンバスのことなど、基本的な話をして、早速絵具に触れてみた。用意した30数色の絵具から、各自3色を選び、白(パーマネントホワイト)と合わせて紙パレットに出した。このとき3色は、透明と不透明の絵具が1色ずつは入るように選んだ。その中から1色を豚毛の筆にたっぷりとり、まずはパレット上で、硬さなど絵具の感触を味わった。それをそのままキャンバスにのせたり、布目にすり込むようにしたり、一度のせてからウエスでぬぐったり、揮発性油のテレピンで絵具をゆるくして描いたり、白の絵具と混色をしたりするなど、5通りの描き方を試した。絵具の扱い方によって、生まれる色の表情が変わることの体験だった。
さらに、各自のペースで、違う形の筆やペインティングナイフも使い、他の2色の絵具も試しながら、キャンバス全体を使って実験するように描いた。絵具の特徴を活かして、重ねたり、掻き取ったり、画面上で混色するなど、偶然起こる絵具の表情を楽しんだ。
2時から20分程、コレクション展示で多彩な油絵の表現を見た。あらかじめ講師が選んだ8作品について、展示室で観察して見えたことを簡単にメモし、創作室で気づいたことを共有した。ジョルジュ・ルオー《街外れのキリスト》(1938-39年)の厚塗りの黒くて太い線と、対照的にフラットな塗りのヴァシリー・カンディンスキー《活気ある安定》(1937年)に注目した人や、ヘルマン・マックス・ペヒシュタイン《パイプ煙草を吸う漁師》(1909年)の人の肌の表現が、緑や赤を使っていて面白いという人がいた。
作家の作品を見て、絵具ののせ方によって、複雑な色が生まれることを実感した上で、制作に戻った。短時間で作品を仕上げることは考えず、色々な塗り方をとにかく試すつもりで進めた。具体的なモチーフは組まないが、温度や味覚など感覚から広がるイメージをテーマに、また、すでに描きたいものがある人はそのテーマで描いた。テレピンに加えて、ペインティングオイルも使用したり、絵具の色を追加したり、豚毛の筆と軟筆を使い比べるなど、1時間弱、様々な表現を試した。
最後に、全員のキャンバスを並べて、制作中に感じたことや気づきを1人ずつ話した。参加者には、白との混色と、ナイフで引っ掻いて地塗りの白を出したところを織り交ぜた人や、絵具をウエスでぬぐった調子が面白かったという人、グラデーションをつくるのが難しかったという人がいた。今回のワークショップは、油絵の制作時間を考えればごく短い時間だったが、実際に絵具を使い、展示室では作家の表現を観察し、各自の制作を展開する中で、新しく触れる材料に親しむ機会になった。
「かたちをつくる―型どりと素材」では、身近なモノのかたちを石膏を使って型どりし、そのかたちを異なる素材で複製してみるワークショップを行った。同じかたちが異なる素材で現れるときの印象の違いを確かめることを目指した。
今回は型どりする対象として、手のひらサイズの丸石を用意した。はじめに参加者には石を2つずつ選んでもらい、そのうちひとつはアルミホイルでギュッと握って包んでもらい、質感の異なる2つのかたちを準備した。続いて石膏と離型剤の使い方を説明し、実際に2つの石を石膏で型どりすることを試みた。このとき、球状をしている石から石膏型をスムーズに外すことを考え、型は4分割を基本として考えた。そのため、4回に分けて石膏を石に塗りつけた。参加者ははじめて使う石膏の感覚に不慣れだったこともあり、最初の内はおずおずと作業を進めていたが、4回目に差し掛かる頃には、型の作り方にもそれぞれの個性が見えるほど、石膏の感触や扱い方にも慣れていた。
実際に石から石膏を外す際には、石膏型の厚みが薄すぎたり、石への離型剤の塗布が不十分だったりしたために、きれいに型を外すことができなかった。また苦労して外した型に流し込んだ石膏も、流し込みが上手くいかず、一部が欠けた状態でしか、かたちをとることができなかった。結果的に、講師も参加者も型どりの難しさを実感することとなった。
最後に講師から、石、その石から型取りした同じかたちの石膏像、同じく型どりした粘土の像の計3つを提示し、同じかたちをした異なる素材を見比べたときの感じ方の違いを確認した。型どりは思うように行うことができなかったが、石、アルミホイル、石膏、土を主な対象に、それまであまり考えを深めたことのない「かたち」と「素材」について話をするきっかけとなり、参加者にとっても不思議な体験となったようだった。
2021年11月28日(日曜日)に予定していた「作品を見る―近代美術とわたしの美術」は応募がなかったため、開催は中止した。
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