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展示室で所蔵作品の油絵を見ることと、創作室で油絵にふれる実技体験を組み合わせたワークショップをおこなった。
これまで油絵を描いたことの無い方を中心に、油絵具にふれ、多様な油彩の表現をコレクション展示で鑑賞してみる。「作家がどういう風に描きたいから、油絵具という素材をどのように使っているのか」という視点を中心に考えてみる。
ワークショップ2日目は、油絵具の性質を油絵の制作プロセスに結びつけてみる。ただし、絵具は使うが、一枚の完成した絵は描かない。
参加者にこれまでの油絵体験を1人ずつ話してもらう。多くの方は、1回は油絵具にふれたことがあった。
展示室で油絵の表現に注目して鑑賞する。
まず、「一番油絵らしい絵」を探す。
5分後に3人に発表してもらい、みんなで見てみる。
どんな点が油絵らしく見えるのか。
1人目は、吉岡憲《マルゴワ》、松田正平《少女》などをあげた。吉岡の絵具の厚み、松田のセーターの雑なようで味わい深い微妙な表現に着目した。大嶋:油絵は一発勝負じゃ描けない色と描ける色がある、あとで体験してみよう。
2人目は、神原泰《あるペシミストの手記》などをあげた。神原の絵は、何を描いているかわからないが油絵具じゃなければ出ないぼやけ方、油絵具の「いやな部分」を楽しんでいるような表現に思えるそう。
3人目は、藤田嗣治《横たわる貴婦人》などをあげた。藤田の作品は油絵具だけのオーソドックスな方法ではないかもしれないが、参加者は透明感に注目した。両側に展示してある安井曾太郎、梅原龍三郎の、太い筆で描いた不透明な絵具と比較する。その先で松本竣介の作品も見てみる。
木の箱(絵具箱)とセットになった油絵道具一式を見せる。
パレット、油壺、木枠、キャンバス、イーゼルなどを順次説明。
なぜ、キャンバスを使うのか、イーゼルとセットで考えてみる。
筆3種類と絵皿、ペインティングナイフ(パレットナイフの人も)、ウエス(洗いざらしのシーツ)を配る。
参加者のみなさんは嬉しそうな様子。
バーントシェンナとジンクホワイトの2色の絵具を使う。絵具を速乾にするため、ペインティングオイルを混ぜて、ペインティングナイフで練り直す。キャンバス(F6~F10)を配る。4分の1の面積にあらかじめ油性の地塗り用塗料を塗布済み。
参加者はいよいよ絵具にさわる。ナイフで油絵具特有の固さを味わいながら、集中して楽しんで練る。「チョコレートみたい」、「お酒をモンブランにかけているみたい」との声もあった。
キャンバスの面積半分を使い、バーントシェンナで5本の線を描いてみる。
それぞれは、キャンバスの既成の地塗りのところと、新たな地塗りの部分にまたがって描かれる。
次にバーントシェンナを5本線の両側にナイフでのせてみる。
同じ絵具でも付け方の違いや地塗りの違いによって、色のニュアンスが変わることを確認。
「展示室で見てきた絵のあの部分はこうかな」ということに思いをはせてみる。
ブラシクリーナーを入れたボール3つをワゴンに、専用の水性のクリーナーを入れたボール2つを流しに用意。油絵具の片付け方についてていねいに説明。
ホワイトボードにキャンバスの表面の図を描き、絵具の付き方がどう変わることで、なぜ見え方が変化するか説明。また、その場合、ブタ毛筆を正しく使った場合の効果、必要性についての説明。
きのう、絵具をのせたキャンバスを触ってみる。速乾のオイルを使ったので絵具の層が薄いところは指につかないくらいには乾いている。この状態で絵具が重ねられる。
油絵具と水彩、アクリル絵具には、水性の絵具は水が蒸発した分かさが減るが、酸化によって乾く油絵は、乾燥する過程で、酸素の分だけ重量が増えるという、大きな違いがある。
昨日描いた5本の線の、絵具の付き方と見え方をおさらい。
油絵は、下描き、中描き、上描きと重ねていく。
油絵具の層は描いてから時間が経ち乾燥度が高くなりすぎると、絵具を重ねたときにはじいてしまい、密着しなくなってしまう。重ねるには表面は乾いているけど、中は乾いていないタイミングがベストで、上が下の絵具に吸い付く感じになる。
油絵はなぜ重ねて描くのかということをみんなで考えた。参加者からは「味わい深くするため」「陰影をつけるため」「色が混じらないため」「時間の経過を表現するため」などの答え。アカデミックな方法としては、見えているものを描くために、小さい点の連続ではなく、大きなまとまりから細部へ進める。それが下描き、中描き、上描きと重ねて描く、ということ。
ヤン・ファン・エイクから杉戸洋まで、油絵の様々な技術や考え方について紹介した。
展示室にある人物画から使われている肌色を採取する。お気に入りの肌色をひとつ見つけて、目録に印をつけ、色味についてメモする。もうひとつ、お気に入りと反対の性質を持った肌色も見つける。
(人の肌色には幅がある。絵具の色名から「はだいろ」はある時期から社会的配慮によって無くなった。また、肌の色は、一色でできておらず、同一人物でも複雑だし、青みや赤みが見えるところがある。絵に描くときも難しい。)
それぞれ見つけてきた肌色をキャンバスに再現する。
12色の絵具をパレット上に置く。
いわゆる肌色に近い中間色として造られた絵具3色と基本色5色、および茶系統の絵具(土性顔料)3色。混色用の白1色。黒は使用しない。
すぐに描き始められる人も、もう見たものを忘れたという人もいた。緑青系をうすく塗る人が何人かいた。ウエスでふきとって丹念に塗って、部分によって絵の具の厚さを変える人も。
キャンバス上の試行錯誤よりもパレット上での色の変化がおもしろく展開し始める。
対象を再現度高く描こうとするときには、規則性のある絵具の配列で、混色によって、視覚の持つ色の分別の閾値を超えて微妙な色味の違いを判断していけるように、精密なパレットの使い方が必要になる。逆に観念的なあるいは表現主義的な色を使う場合、極端にいうとパレットは必要としない。
みんなで元の絵がわかるものはあるか探す。
松田正平の作品から採取された肌色はみんなわかった様子。
パレットの方も見比べてみる。
最後にスライドでモネ、スーラ、シニャックのパレットを見せる。
モネの「睡蓮」について話す。
印象派は現場制作したことで、対象から見える色彩の変化だけではなく、色彩の質の違いにも気づいていく。たとえば、樹木の葉っぱの緑も、葉の裏と表の違いだけでなく、反射光と透過光でも違って見える。が、それだけではなくて、「睡蓮」の場合、水面の上にある睡蓮の葉の色、水面に映じている空や周りの樹木の反映の色、池の底、つまり表面から入った光が反射して戻ってきてその水の厚みを伝える色。これは、それぞれ、サーフェースカラー、フィルムカラー、ボリュームカラーの3つの色の質を示している。この3つの色の質を、基本サーフェースカラーである絵具を使って、厚みや、重ね方、あるいはタッチの方向など、それらの組み合わせで違いを描き分けていく。油彩の肌色の表現にも色の質の差がある。
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