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絵の色の見え方は、絵具の色みに加えて、透明性の違いや絵肌の質によって複雑に変化する。キャンバスや紙の表面に、どのように絵具が重なっているのかに注目して、創作室での体験とコレクション展示の鑑賞をするワークショップである。
参加者が自己紹介。普段絵を描いている人は使っている画材について、描いていない人はなじみのある絵具について話す。油絵具、水干絵具、パステルなどの画材名があがる。
「色が見える」とはどういうことかを話す。色と光の関係、光源色と物体色、明度・彩度・色相について説明。
絵具の色について話す。(ヒトが知覚した現象としての色を、別の物質で置き換えたものが絵具だ。)絵具の主な成分である、顔料(発色成分)と展色剤(固着成分)に注目してもらう。同じ顔料でも、それに合わせる展色剤が違えば、違う種類の絵具になる。アラビアゴムであれば水彩絵具に、合成樹脂のアクリルメディウムであればアクリル絵具になる。展色剤の影響を受けて、絵具の発色や使い心地は変わる。
次に、絵具の透明性について説明。例えば色紙には透明と不透明の違いはないが、絵具は物質で、同じ種類の絵具でも色によってそれぞれ透明性が異なる。これは顔料と展色剤の組み合わせの違いによる。実際に同じ色みのアクリル絵具(スカーレットレッドとカドミウムレッドライト)で、半透明と不透明の色を比べてみる。
最後に、ワークショップで使用するアクリル絵具について説明する。アクリル絵具の特徴である耐水性と速乾性、濡れ色と乾き色の差について話す。皆で絵具のラベルを読み、色名・絵具の名・顔料名を観察する。
実際に絵具を使った体験をする。絵具の層のつくり方によって絵の色がどう変化するのか、気づきを得たい。絵具の透明性、混色、重ねる順番、層の厚み、絵肌の質などによって絵の色はどう変わるだろうか。
使用するアクリル絵具は、ほぼ同じ色みで透明性が違う赤と白2色ずつと、青1色。キナクリドンレッド(透明)、カドミウムレッドミディアム(不透明)、ジンクホワイト(透明)、チタニウムホワイト(不透明)、ウルトラマリンブルー(透明)。事前にマス目を書いたキャンバスペーパー(キャンバス表面の凸凹を模した紙)に、あらかじめ決めた順番通り絵具をのせていき、色見本のようなもの(絵の色・マチエールの見本)をつくる。薄塗り、厚塗りの客観的な目安として、「配色カード」を用いる。
体験は大きく2つ。1つ目は透明色と不透明色の重ねた色(以後重色と呼ぶ)と混色による発色の違いを見る。2つ目は透明色と不透明色の白の混色と重色(凹凸をつける)の発色を比べる。
まず、透明色・不透明色の赤と透明な青の重色を、塗り重ねる順序を替えて4通りする。続いて重色で得られた色に近づけるように、混色を4通り。さらに、青と赤を筆で混色しながら混ぜきらず塗る、いわば「5割混色」を2通り。同じ絵具を使っていても、重色と混色で得られる色はまるで違うことを実感する。これで14マスが埋まる。
お昼休憩を挟んで、2つ目の体験に移る。透明性が違う赤と白の絵具の混色を4通りと、白に薄く赤を重ねた色2通りの発色の違いを見る。
赤と白の混色時には、チタニウムホワイトとジンクホワイトの「着色力」の違いを実感する。同じ絵具の量だとチタニウムホワイトの方が白みをより感じる。
重色の白は、休憩前にチタニウムホワイトにジェルメディウムを混ぜて、多少凸凹ができるように塗り、乾かしておく。乾いた後に赤を水で薄く溶き、凸凹にひっかけるように重ねる。白と赤を混ぜた色と、白に赤を重ねた色はどう違うだろうか。
同じ色みの絵具でも、透明性や着色力は異なり、それぞれ個性を持っていることを体験した。
絵具の体験に続いて、「支持体」について話す。支持体は絵画を支える材料のことで、一般的には紙やキャンバス、板などが考えられる。多孔質であることや耐久性があることが支持体の条件だ。「絵の色」を考えるため、どのような支持体にどう絵具が重なっているか、層の構造で絵を見てみる。層の重ね方次第で絵の色は変化する。目止めや地塗りの意味、有色下地と白いキャンバスについて話す。
そして2日目に使う支持体について話す。糊引きキャンバスを杉木枠に張り、ジェッソで地塗りを施してある。
展示室へ移動する。絵具の体験と、絵具と支持体の関係を理解した上で、実際にコレクション展示の絵を見てみる。絵の色の表情を見分けるため、各自配色カードを持って行く。色みは配色カードと比べて同じ色味を探し、さらに透明性や絵肌の特徴についてはメモをする。
まず、皆で松本竣介の《画家の像》(1941年)と《郊外》(1937年)を見て、絵の色を見分け、言葉にしてみる。絵具ののせ方(混ぜる、重ねる、下層を透かす、ぼかす…など)によって色の見え方はどう変化しているだろうか。そして絵具の体験で確かめた、重色と混色の発色の違いを作品上で見る。体験では絵具の層は2層とシンプルだったが、実際は複雑に組み合わさっていることを見て感じる。
次に、松本竣介《画家の像》(1941年)と大沼かねよ《シューズ・クリーニング・ショップ》(1933年・寄託作品)を比べる。どちらも油彩で(支持体は松本作品が板で、大沼作品はキャンバス)、ベースとなる色は茶色系といえる。同じ油彩、茶色系統で、配色カードと比較したときに色みが同じ箇所もあるが、混色・重色の違いなどさまざまな理由で、違う絵の色が生まれていることが分かる。
創作室に戻り、色の三属性や表色系などについて話す。本当は区切りのない色の世界を、体系的に整理・分類するために考えられた表色系によって、色を記号で簡便に伝えることができる。
ワークショップ2日目の話を少しして、1日目終了。
ワークショップ2日目は、コレクション展示の絵を見て、色の重ね方の構造を再現する。
実技の前にレクチャー。
絵具の層のつくり方によって絵の色がどう変化するのか、コレクション展示の絵をきっかけに探る。
講師が選んだ6作品から1人1点選んで、その絵の色の重なりの構造を再現してみる。全体を描くのではなく、気になるところ(且つ、違う絵具の重なりを含んだところ)をトリミングする。矩形を埋めなくて良く、フェードアウトして良い。
実際の作品の多くが油彩だが、キャンバスにアクリル絵具でやる。模写ではなく、色の重ね方の構造をよく観察して、油彩からアクリル絵具に置き換えてみる。
自分ではない作家の作品を追いかける過程で、絵具の重なりはどうなっているか、下の層まで掘り進めていくイメージだ。
まずは、展示室で選んだ作品から色の採集をする。配色カードを持って行き、色みのメモに使う。
同じ作品を選んだ人同士で、気づいたことを共有しながら進める。近くで見て、絵具の層の厚みを観察する。支持体は布か、紙か、板か?白いキャンバスから始めたのだろうか?ということも想像する。
展示室で観察したことを元に、キャンバスに絵具をのせ始める。
作家は絵を平置きで描いたのだろうか、立てていたのだろうか?と推測する。筆で描くなら、平筆、フィルバート、丸筆のどれを選ぶか。絵具を重ねるだけでなく、こそげとりもしたのだろうか。描いた道具は筆とは限らないかもしれない。いろいろな可能性を考えて進める。白系の絵具で、一層目のマチエールを作り込む人もいた。
キャンバスをすべて前に並べて、展示室で見た絵具の重なりを、どう再現したのかをみんなで見る。参加者は気になった絵を選んでコメントし、それを描いた人は、作品の絵具の重なりで注目した点と、自分が実践したことを言う。同じ作品に取り組んだ人同士でコメントする。参加者が気づいたことの中からいくつかをあげる。
見るだけではなく、キャンバス上に再現しようとする中で、普段気づかないことに目が向けられた。自分ではない他の作家の作品を追いかけることで、どのように絵具が重なることで絵の色が生まれるか、考えるきっかけになれば良い。
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