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「粘土で立体をおこす―思い出の中のモチーフ」では、それぞれの参加者が関心のある、頭の中にあるイメージを粘土で3次元の立体に起こしてみるときにどのようなことが起こるのかを体験することを目的とした。
参加者それぞれが決めたモチーフに合わせて、スタッフが相談の上、それに適した心棒の作り方を提案するところから始め、およそ2時間半で、実際にモチーフを粘土で完成させるところまでを行った。参加者は久しぶりに触れる粘土の質感を確かめながら造形に熱中していた。その後、完成した塑像を前に、制作者がその背景を話し、それに対して他の参加者が感想などを述べる中で、イメージを実際に立体に起こすときに感じたことを明確にした。
特に印象的であったのは、頭の中のイメージを質量のある物体として現実空間に起こすとき、イメージとのギャップが生まれることに気づいた点であった。特に普段は平面作品に取り組んでいる参加者が多く、同じイメージを作品にしているといえども、それを画面上で表現する場合と立体作品として表現する場合では、その過程に大きな違いがあると感じたようだった。立体作品として実際の素材を使ってイメージを起こすとき、そのかたちは素材の性質や重力に影響を受ける。また、頭の中では意識されていなかった部分まで、かたちとして表れてくる。しかし、逆にそれらの影響を造形に取り込み、イメージを発展させることもできる。こうした気づきを参加者間で共有し、このワークショップのまとめとした。
「アクリル絵具で描く―イメージのひろげかた」では、これまでアクリル絵具に触れたことのない方を中心に、新しく使い始める絵具の多様な表現を試す中で、参加者それぞれの絵の描き方が広がることを目指した。
多くの参加者はアクリル絵具を知っていても、その性質を意識して使ったことはほとんどないようだった。そこでワークショップ前半は、水で溶けるが乾くと耐水性で、重ね塗りや厚塗りなど色々な表現をすることができるこの絵具のいくつかの特徴を確かめた。同じ色みの絵具でも、透明性や着色力は異なることを体験するため、青と、透明と不透明の赤と白の5つの絵具を使い、透明色と不透明色の混色と重色による発色の違いを比べた。また、透明性が違う2つの白と、青の混色、重色も試した。さらに、絵具と混ぜて使うことで粘度などが変わるメディウムを混ぜ、盛り上げた上に、色を重ね、生まれる質感を観察した。
絵具が生み出す表情を確かめた後、後半はF6号のキャンバスを使い、新しく使う画材を実験するつもりでそれぞれ描いた。途中、参加者が普段制作している作品の画像も見ながら話し、制作を進めた。最初に何を描くかは決めず、チューブから出したままの色を画面上で伸ばし、見えてきた風景を描く人や、描きたいモチーフの画像を複数見ながら画面上で再構成し、絵具を多量の水で溶き、たらしこんで描く人など、それぞれの絵を展開した。普段の絵具とは違う使い心地、偶然起こる絵具の表情などをきっかけに描き進めた。最後はそれぞれ制作中に思ったことなどを話し、終了とした。
「美術館の作品を見る―近代美術とわたしの美術」は、参加者各々の美術に対するイメージを起点に、美術の範疇が広がるような体験となることを目指して実施した。
参加者には事前に、もし作品を制作しているようであればその画像などを持参するように伝え、ワークショップではそれら作品画像や参加者のこれまでの活動などを軸として対話することから始めた。参加者は絵具を用いた絵画、デジタルイラストレーション、アニメーション、あるいは新体操など、皆何らかの表現活動を行っており、それぞれの表現との関わりを意識しながら、実際に美術館の作品を見に行くこととした。その際、事前にスタッフから「自分の表現に近い表現を探す」、「自分では絶対にしない表現を探す」など、幾つか課題を提示し、各々気になる作品をよく見て選んでもらうようにした。
展示室から創作室に戻り、気になった作品について参加者の意見を聞きながら、なぜそれが気になったのか、なぜそのような表現をするのかなどを話し合った。参加者によって関心は異なりながら、不思議と同じ作品を選んでいたりし、なぜそれを選んだかについて互いの見方を共有した。最後には前庭に向かい、ダニ・カラヴァンの《マアヤン》(1995)やその周りの環境を合わせて見ることで、様々な表現の在り方、そしてなぜそれが美術作品なのかについて話ながら、美術そのものについて考える機会とした。
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