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今回のワークショップのタイトル、「絵画の練習 室内風景から抽象へ」について話す。
室内風景を、コラージュを使って描く。
室内風景画は、窓や扉、壁に架かった絵などを描くことで、室内と同時に室外の世界を描くことになる。内部と外部、プライベートとパブリックなどの対立する要素が生まれる。それらを両立するように画面に描こうと工夫するときに、単なる単純化ではない「抽象化」を考える。
アンリ・マティス(1869~1954)の作品を参考に、室内風景の複雑な空間を抽象化して、豊かな絵画空間を探る。
室内風景画の歴史、室内の意味の変化(自分の部屋のインテリアを個人的感覚で整えるようになったことなど)について話す。ヨハネス・フェルメールやエドゥアール・ヴュイヤールの描いた、日常の親密な室内風景の主題について触れる。また、親密さだけではないものとしてマティスの室内風景を紹介する。
次に、「抽象」と「捨象」について話す。
抽象にはいくつかの意味があるが、今回は対象の事物のある側面を抜き出して把握するという意味。このとき、事物の他の側面(物それぞれの個性など)を捨象することになる。抽象化すると個別の事物を超えて共通する造形要素が見つかる場合がある。抽象化によって、ものと空間を一度に描けないか、練習する。
マティスの室内画には、≪赤い調和≫(1908年)、≪赤いアトリエ≫(1911年)から晩年のいくつかの作品まで、窓や鏡、自作の絵が描かれているものが多くある。そのことによってプライベートな空間に穴があき、外の世界へつながる。対立する要素が一枚の絵に描かれ、豊かな絵画空間を持つ。
マティスの作品を参考に、創作室の室内風景から絵画空間を探ってみる。
1日目は鉛筆で繰り返しスケッチを行う。2日目は色紙でコラージュし絵をつくる。絵具を使うよりも色紙のコラージュの方が、物のシルエットにこだわらずに絵の構成や色面の形を変えていける。
会場である創作室に様々な物を配置した。いつもの部屋とはイメージを変えるため、また中景の要素を加えるためだ。参加者自身も室内風景のモティーフになる。
主に鉛筆を使ってスケッチを2枚描く。各自気になる場所を探す。
遠景、中景、近景が含まれる場所が良いと話す。
鏡や、丸いガラス瓶の球面など、室内が映り込む物に注目する人が多くいた。他には、三脚に架かったカーテンの隙間から見える風景や、ガラス扉に反射している風景と透過している風景が同時に見える場所に注目する人などがいた。
2枚描いたスケッチのうち1枚を選んで並べ、みんなで見てみる。描いたその場所が気になった理由を話す。
全体的には、近景と遠景はあるが中景を描いていない人が多い。また、描きたい物だけではなく、物の周りの空間をどう描くかも今日の課題の一つ。
午前中のスケッチを踏まえてクロッキーをする。描く場所を変えながら、1箇所5分で10枚描く。短時間で描くため、その室内風景の大事なところから描くようにする。見ている空間を端的に表すにはどこから描いていけば良いか。その一つの方法として中景を決め、そこから手前と置くに広げていくように描く。立って描くなど、目線の高さも変えてみる。
短時間に描く場所を変えていくので、参加者は最初のスケッチのときよりも多くの景色に出会っていた。
描き終わった10枚のクロッキーを床に並べて置き、描いていて面白かったところについて各自話す。三脚越しに見える景色や、姿見に映っている景色と実景のつながりなど、それぞれが気になるところを見つけた。
全体的には、まだ物だけに目が行って周りの空間への意識がなくなりがちだった。物と同時に空間を描くことを意識したい。
2日目に描く場所を決め、50分かけて1枚スケッチする。硬い・柔らかい、暗い・明るい、内側・外側など、対立項がたくさんある複雑な場所を選ぶようにする。
2日目にコラージュについて少し説明し、1日目が終了した。
2日目は、「物とその周りの空間の両方を描くこと」、「対立する二項を同時に描くこと」を念頭にやってみる。
物はテーブルや地面など、支えるものがないと存在しない。
また、例えばガラス瓶に映り込む蛍光灯のように、室内風景を描くと、内的な空間に外側のものがぶつかってくる。
1日目の鉛筆スケッチを、色面に置き換えていくプロセスについて説明する。物の輪郭で分けるわけではない。物の輪郭にとらわれず、物と空間や、内と外を両立するような、出来るだけ少ない数の色面で豊かな空間をつくりだす。言葉だと分かりづらいので実践してみることとする。
描く場所を決めてから、使う色紙を選ぶ。本番の1/4サイズの紙で2枚エスキースする。
土台にある色紙(A4サイズのボード)と、そこに貼るラシャ紙の色を選択する。単純に好きな色を選ぶのではなく、コラージュするときのことを考えて慎重に決める。
絵の具による色面描写ではなく、色紙によるコラージュにするのは、その方が端的な色面が見やすく、かつ色面の形状や色を何度もためしやすいからである。
色の組み合わせを変えて、同じ場所で2枚つくる。もし2色で行き詰まったら3色目を使っても良いとする。用意した物は無地の色紙が多いが、縞模様のハトロン紙や紙ヤスリなど質の違うものも使える。
各々描きたい場所で、色紙を並べ構成を考え始める。
同じ色紙でも、はさみで切ったときと手でちぎったときでは、色面から生まれる空間が違う。物の持っている質の表現も、それによって変わる。
色紙はすぐに貼らずに並べながら考える。また、ときろき離れて見て、客観視することも大事だ。
エスキースを並べ、みんなで見る。
遠くから見たときに、奥行き感や、空間の動きが生まれていれば、上手くていっているといえる。
1日目に、遠景、中景、近景のうちの、中景が大事という話をした。見ている空間の中間に、絵の画面に平行な面を見つけると、その面を基準にして描きやすいかもしれない。現実から抽象していくプロセスを大事にする。
エスキースを踏まえ、A2サイズのボードにコラージュする。
サイズはエスキースのときの4倍になるので、捉える色面も一つ一つ大きくなる。色数も色紙を入れて4色ほど使って良いとする。
出来たコラージュを並べる。一人ずつ他の参加者の気になる作品を選び、その理由を話しながらじっくり見る。
画面のサイズがエスキースの4倍の大きさになって、紙の切り方、色面の大きさ、色を変えるなどの試行錯誤で、豊かに展開した。扉や鏡など、異質な物の対比をどう色面で表現するか、室内風景の複雑な空間を抽象化して、絵画空間を探った。繊細なものや、リズム感のあるものなど、各々が見つめた空間の個性も生まれた。
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