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簡単なあいさつの後、最初の課題に取り組む。
水粘土1人4kg程度を配布し、直径15cm程度の真球を粘土で作る。
作り方は人それぞれだが、どうしたら正確な真球がつくれるか、粘土に慣れながら試行錯誤してみる。粘土板の上で転がす・手で丸めるなどの方法では歪みやすい。ある段階からは、粘土板の上に置いて、四方八方から見ながら粘土をかちっと(面を決めながら)つけたりとったりしたほうが彫刻家らしい作り方。
タイトル「塊 から/への センス」と名付けた、今回のワークショップの問題意識、立場について話す。
かっこよいものを、みつけられるか/つくれるか、そこで働くセンス(感性)について考えたいが、日常用語としては混乱して使われる感性と感覚の違いをとりあえず、説明する。
「感覚」は感覚器官から受け取る外部刺激で、その感覚は常に非選択的に働いている。
「感性」は外界と関係しながら、感受、判断や価値決定、感情の動きなどの無自覚的・直感的・複雑な情報をとりまとめる印象評価(論理的評価ではなく)。「理性」との違いにも注意する。
まず、性格の違う塊から、働く感覚・感性の違いを感じ取ってみる。
水粘土の真球では、正確さに対する感覚・感性が働く。
この課題は油粘土で行うことが多いが、今回は水粘土を使った。素材の条件としては作業上難しくなるが、1/100mmを合わせられるかどうか。職人だと1/1000mmで感覚が働く方もいる。
球と同じくらいの大きさの「団子」をつくる。真球とどう違うのか?
「食べたい」と思えるのはどれか?
たとえば平たさ、張り(表現されている質を感じさせる曲面)、塊から受けるやわらかさはどうか。
真球を目指したものは無機的な感じがする。
個人それぞれに団子の経験があり、定義がある。経験値が高い対象ほど心を動かされやすい。「団子」に見えるかどうか、おいしそうに見える団子を作れるかどうかは、感性の問題に関わる。
真球の直径程度を一辺の長さとした粘土の立方体をつくる。
粘土板にたたきつけて面を作るとひずみ歪んでしまう。
大まかに形ができたら粘土板に置いて、道具も使いしっかりと面・角をつくると、箱ではなく立方体に見えてくる。
(休憩)
真球、団子、立方体の3つの塊を並べて見てみる。
よく見た後、立方体と球体、両方の性質をもつ,ほぼ同じ大きさの塊1個をつくる。
真球と立方体の間に、つくった塊を置き、鑑賞する。
ポイントは、真球や立方体のどの要素が含まれていればそれらしく見えるか、という点。
たとえば三方向直交の角があれば、立方体のように感じる。では球はどうだろうか。
もう一つのポイントは、立体として一つになっていなければならないのでそれをどのよう成立させるか。立方体と球体の中間値をだすような機械的な解決方法でよいだろうか。
通常、経験したことのない矛盾した塊をつくるときに感性はどう働くか。元の形がくずれ変形していくとき、どの段階までもとの形が感じられ、どこから別の形と認識するだろうか。
2日目の最初の課題は紙、布、綿のうち2種類を使って塊をつくる。いいかえると、塊材で可塑性のある粘土を使わず、面材や可塑性は持たない材料で「塊」を作る。今回、紙をつぶして紙粘土化したり、ぎゅうぎゅうに丸めたりするのは禁じ手。この課題への作戦を考えてくる。
内容を考え取り組む人、素材を扱いながら考える人。
紙(青色)は切って使う人が多い。布は普通の布と不織布が用意された。
「塊に見えるかどうか」「どのようなアプローチだったか」などを話題にしながら見る。
塊に見えるかどうかは、素材の見せ方に関係し、たとえば紙なら、平らにしておくより曲面を出して、対応する曲面同士が互い関係に一つの塊の対面や連続する面の一部に感じられるほうが塊に見える。
自分の感性的判断だけではなく、つくられたものを見る他者の感性(心)を動かせるか。
カンディンスキー≪水門≫のカラーコピーが配られる。
この絵画を多数の色面の集まりとみて、一つ一つの色面を色の塊として、粘土で粘土板の上に表現する。レリーフや模写ではない。
色面を塊でとらえることへの疑問が多く出る。
色面の広がりについて、それが表す形や空間の量(volume)を含んで、色面をマッス(mass)という造形用語がある。もともと、輪郭線で囲われた中を塗るというよりも、形や内部の充実を感じ取っている感性の問題。作品を構成する一つ一つの色の広がりを、厚みのある質のともなった粘土の広がりに置き換える。
(休憩)
筆触にひっぱられずに、色面の広がりが粘土の広がりに置き換えられるているか。
気に入ったグラスを1つ選び、作業スペースに持ってくる。
そのグラスと並べたとき、それとは全然違うが面白そうだと思う物を1つ、創作室で探す。
探した物を先のグラスと並べて置く。
それぞれの物体が持つ性質や要素をよく見てみて、新たな粘土の塊(立体)をつくってみる。が、なかなか手がかりがない。方針が立った参加者から徐々に作り始める。
規則性というよりは、ストーリーを作って(感じて)いる参加者が多いかもしれない。
各参加者は自分のイメージやストーリーを語り、それを聞くことで他の参加者は見ている物に納得する場合が多い。また、制作物の塊としての強さや力は、粘土という素材の扱い方に大きく左右されていたようだ。
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