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私たちは劇的な風景、記念の時間、大切な人など、ありとあらゆる瞬間を容易にあるいはフォトジェニックに撮影して写真として残すようになった。だが、写真のイメージは、必ずしも撮影者の意図の通りに伝わるとは限らず、むしろそこには鑑賞者によって多様な読み解きが生まれることになる。このワークショップでは、複数枚の写真が並べられることによって新たな意味とその多様な読み解きが生まれることに焦点を当てて行った。
参加者には、事前に写真を撮影し、そのうちの20点を2L程度のサイズで紙に出力、さらにその20点のうち3点ほどをデータとして、両方をワークショップの日に持参するように伝えた。なお、撮影する写真のジャンルは特に指定しなかった。
当日はまずスタッフから写真を見ることの多面性について話をした後、参加者に持参した写真のデータからそれぞれ1枚イチオシを選んでもらい、これをプロジェクターで順番に投影しながら、互いの写真を実際に見てみた。このとき、それぞれの写真が誰の撮影によるもので、どのような背景を持つものかなどの情報は一切話さないようにした。参加者には事前に手渡したメモ用紙に、それぞれの写真を見たときに連想した見出し語5つ以上と、20枚を連続に並べることを想定したときにその写真が「はじめ」「真ん中」「おわり」のなどのどのあたりに位置すると感じたかを書き出してもらった。参加者は自分の写真が映っても反応せず、互いの写真を見ながら、黙々とメモ用紙に見出しと「はじめ」「真ん中」「おわり」の位置について書き込んでいた。
全員の写真を見終わった後、それぞれの写真が誰の撮影によるものかを明かし、各々の写真に対して書かれたメモを該当の写真の撮影者のもとに集めた。撮影者は、他の参加者によって書かれたメモ用紙を見ながら、自分の写真につけられた見出し語とその写真が「はじめ」「真ん中」「おわり」のどのあたりに位置するかを1枚のメモ用紙にまとめて書きだし、それが撮影者が抱いていた写真への印象と異なるかどうかを考えた。そうして得られた見出し語の群の中から自分が面白いと思ったものを3つ選び、見出しと他の参加者に書かれた「はじめ」「真ん中」「おわり」の位置を意識しながら、20枚の写真を分類した。一度分類し終わったらもう一度見出しを見直し、写真それぞれの写すイメージを前後の写真のイメージとのつながりの中に置くことを意識しながら、20枚を机の上に連続に並べることに挑戦した。参加者は、それぞれの写真の映すイメージから何らかのつながりを見出し、どうにか連続性の中にそれを置こうと試行錯誤していた。きりの良いところで、スタッフから美術における写真史や写真集について説明を行い、連続性のなかで見る写真が持つ新たな意味について考えたところで、昼の休憩を挟んだ。
午後のはじめに、もう一度それぞれのつながりを意識して机の上に写真を並べ直してみた後、参加者に八つ切りサイズの白い紙を10枚配り、これに20枚の写真を貼り付けることで写真集をつくることを試みた。机の上に写真を並べることでそれらを一望できるのに対し、写真集という形式では、めくるという動作によって次々に写真が現れるという異なるつながりで写真を見ることになる。また、ページ内の写真のレイアウトや、写真以外のものを配す(もしくは写真を配さない)ページの使い方などによって、異なる印象を生み出すことができる。参加者は、実際に手を動かして写真を並べてみることで、写真集の中に置かれた写真の連続性が生みだすものについて考えながら、各々の写真集をつくりあげた。最後に現物投影機を使い、各人の写真集を全員で見て、それぞれの写真集の興味深い点やより良くなる可能性のある点についてスタッフから簡易なコメントを残し、写真を見ることについてもう一度確認することで、このワークショップを終えた。
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