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新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、定員を12名とする他、活動前の検温、時中の手指消毒、イーゼル間の間隔をあけ、参加者同士の会話を極力なくし、用具を個別に配布するなどして行った。
今回のワークショップは、晩年のポール・セザンヌのような見方・描き方で水彩画・スケッチを時間いっぱい描く過程で、普段とは違った方法で、感覚の働きを再確認し、誠実に空間を見、感じたことやその表現を試みたものである。
前日までに、机や石膏像、鏡や多種多様な物を組み合わせ、風景を感じさせるような大きなモチーフを組み立てた。また、使用する水彩紙を水張りして用意した。絵具は、セザンヌの様々な水彩風景画を参考に、16色の透明水彩絵具を準備し、類似色順に並べてパレットに出しておいた。
1日目。参加者は、到着順にくじ引きで指定されたイーゼルの場所へ向かい、八つ切りほどの水彩画用紙にセザンヌの風景スケッチ画《In the woods》(1900年)の模写にとりかかった。鉛筆であたりをつけるところから、または着彩からと、各々の手順で模写していく。後の「本番」に備えて、その水彩紙(ストラスモア・インペリアル)に慣れ、発色を確認することもねらいの一つだが、この模写を通してセザンヌが「どこから描いたのか」「線や色彩に、また画中の白い部分にどんな関係性を表そうとしているのか」「なぜ色斑で描いているのか」などを意識して筆を進めた。
11時。模写を終了し、改めて今回のワークショップのねらいと、どんな手順で描いていくかを確認した。面で色を塗らずに、見たところだけの色を置き、見えた物・ことの関係性を描いていく。物は描かず、その輪郭線の外側に慌てずに色を置いていく。空間と、そこにある物の関係(手前・奥、濃い・薄いなど)に着目し、その色調のバランスで描いていく。自身の模写作品を改めて見、試みる表現に思いを巡らしながら、昼の休憩に入った。
13時。水張りしてある画面と、モチーフに向き合う。
「もの」は描かない。関係性を描く。
はじめはなかなか筆が進まない。そこで、「自分から見えているところのどこを基準とするかを考えて決める」ことをアドバイスする。その基準から見た奥・前・手前、濃い・薄い・その中間などの関係性を少しずつ見つけ出せ、あたりの下描きや、色を置き始める姿が見られた。全員が各々に描き始め、進めることができたところで1日目は終了した。
各々が昨日の続きから始める。もう一度「物ではなく、関係を描く」という留意点を確認する。その際、(1)色面ではなく視線が止まったところだけを誠実に描く、(2)物の外側、輪郭線の外側を描く、(3)描かれる諸点はその点と関連づく手前および奥の3点との比較によって、その色調や強さが決定され、描かれる点はタッチの一つであり、いわゆる点描で使われる点ではないことを説明した。また、スタッフも「輪郭線の外側を描く、互いの関係性を描く」ことをやってみる。声がけとスタッフの描き方からヒントを得た参加者は、どうしても見える物を見えるように描き込みたくなる衝動を抑えつつ、外側・外側・・・と丁寧に見て、見えている色、感じた色をひたむきに置き続けた。
お昼の休憩を前にして、他のセザンヌの作品を中心に説明の時間をとって、技法や表現方法について確認した。また、「見ているところだけ」という感覚がつかめるようにと、灰色の色画用紙に2cm四方の穴を空け、その「窓」からモチーフを覗き見、焦点を絞ってみることも試みた。
休憩を挟んで、時間の限りゆっくり、じっくり色を置き続ける。
15時に片付け始め、最後は1日目の模写作品と並べて、互いの作品や表現を鑑賞した。
感染防止の観点から、参加者が相互に感想などを伝え合うことはしなかったが、「やることでうまく描けるようになるものではなく、『絵について考える』というものだと分かっていても、どうしてもそのものを描き込みたくなり、空間を描く困難さや戸惑いを感じて描いた」という一方、「見て、感じた空間や関係性をどう残すか考えながら、これまで試みたことのない表現に挑戦することで、より空間を意識して見ることができるようになった」という声も多くあった。
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