農業早期復興プロジェクト/耐塩性作物による早期経営改善対策/県水稲奨励品種の耐塩性評価と耐塩性水稲品種の開発
(古川農業試験場 作物育種部)
津波により海水が浸水した被災水田において,県水稲奨励品種及び既存の耐塩性変異系統を作付けし,その耐塩性を評価しています。
また,既存の耐塩性変異系統を育種母体として利用あるいは,イオンビーム育種法を用いて宮城県オリジナルの耐塩性水稲品種を開発しています。
試験・調査概要
- (1)耐塩性評価
- a.塩害水田による評価(大崎市鹿島台:東北大湛水生態系野外実験施設)
奨励品種(比較含):8品種(ひとめぼれ,まなむすめ,ササニシキ,あきたこまち,コシヒカリ,げんきまる,ハバタキ,ミナミユタカ)
耐塩性変異系統・比較品種:5系統・品種(6-99,19-74,14-45,18-36,日本晴)
- 無処理区,塩水処理区(ナトリウムイオン濃度20-40mM,60-80mM),反復なし
- 移植日:5月24日,栽植密度:11.1本/m2(1本植),施肥:N成分3kg/10a
- 塩水処理期間:6月27日~10月11日
- b-1.被災水田による評価(石巻市蛇田:除塩有)
aの13品種
- 対照区なし,2反復,移植日:5月31日,27.8本/m2(4本植),無施肥
- b-2.被災水田による評価(仙台市若林区荒井:除塩無)
日本型品種,インド型品種等 計36系統・品種
- 移植日:6月15日,低塩区(0.5dS/m以下),高塩区(2.0dS/m程度),各3反復
- (2)耐塩性品種の開発
- a.慣行育種法による育成
耐塩性変異系統を母本として、有望系統と交配する。
- b.イオンビーム育種法による育成
イオンビーム照射した2品種(ひとめぼれ、まなむすめ)のM1を養成する。
試験・調査結果(状況・情報)
- (1)耐塩性評価
- a.塩害水田による評価(大崎市鹿島台)
地表下15cmの土壌中ナトリウムイオン濃度(μg/g)は,無処理区:640(5月31日),620(6月27日),510(8月1日),60-80mM処理区:1600(5月31日),950(6月27日),2300(8月1日)でした。60-80mM処理区で,供試品種全てで下葉が白化し,精玄米重が減少,屑米重が増加(表1)しています。稈長,穂長,穂数,稔実率が減少しています(表2,3)。ハバタキ,ミナミユタカで稔実率の低下大でした。今年の結果から,ハバタキは白化症状が顕著で耐塩性が劣ると考えられます。奨励品種間では明確な差は見出すことができませんでしたが,耐塩性に差があっても,その差は小さいと推測されます。
- b-1.被災水田による評価(石巻市蛇田)
地表下15cmの土壌中ナトリウム濃度(μg/g)は,1000(5月31日),1400(6月24日),710(8月10日)でした。生育初期は,生育抑制(分げつ,発根),生育中期に上位葉の葉先に枯れ症状が観察されました。出穂後は概ね順調に生育しています。ハバタキで下葉に赤枯れ症状が見られました。精玄米重は一般圃並(表4)でした。
- b-2.被災水田による評価(仙台市若林区荒井)
移植後,下葉に淡い赤枯れ症状が散見,一部の個体は枯死しています。生育初期は,一部の品種(リーフスター等)で分げつ抑制が見られたが,概ね正常に生育しています。
以上のことから,ナトリウム濃度60-80mMの塩水処理により,供試品種の多くで稈長,穂長,穂数,千粒重,精玄米重が減少し,玄米品質,食味が低下しました。
県水稲奨励品種間では,耐塩性の明確な差を見出すことはできませんでした。インド型品種ハバタキは,耐塩性が劣ると推測されます。
- (2)耐塩性品種の開発
- a.慣行育種法による育成
東北192号,東北200号と6-99,東北192号と19-74を交配し,それぞれ30,55,35粒のF1種子を得て、F2を養成中です。
- b.イオンビーム育種法による育成
イオンビーム照射した「ひとめぼれ」と「まなむすめ」のM1世代を,それぞれ413,379個体養成し,不良形質(不稔多,矮性)を伴う個体を除いた368,349個体を選抜し,M2種子を得ました。
(平成24年3月29日更新)
(1)耐塩性評価
a.塩害水田による評価(大崎市鹿島台:東北大湛水生態系野外実験施設)
耐塩性イネ作出試験
大豆の塩害負荷試験
塩水をくみ上げるポンプ
2011年10月3日
無処理区
低濃度区(20-40mM)
高濃度区(60-80mM)
高濃度区(60-80mM)
成熟期の生育特性
→稈長、穂長、穂数が減少
玄米収量
→60-80mM区で、精玄米重が減少、屑米重が増加
千粒重と玄米品質
→千粒重が低下、玄米品質(光沢)、食味が低下
b-1.被災水田による評価(石巻市蛇田)
石巻市蛇田地区(除塩有)
2011年6月15日
補植用苗
ST16(コシヒカリ)1本植え株
(2011年6月19日)→ST16(コシヒカリ)1本植え株(右)ではほとんど分けつ,発根がなく,多くが枯死。補植用苗(左)は比較的障害が軽微
2011年8月4日
隣接ほ場の葉先枯れ症状
玄米収量
b-2.被災水田による評価(仙台市若林区荒井)
仙台市若林区荒井(除塩無)
2011年7月2日
下葉の枯れ上がり症状
枯れ上がりによる枯死個体
2011年7月10日
分げつが抑制されている品種
分げつが旺盛な品種
(2)耐塩性品種の開発
2011年8月9日
東北192号(早生),東北200号(中生)と耐塩性突然変異系統(6-99,19-74)を交配