農業早期復興プロジェクト/被害地域における農業経営の実態調査と地域農業再生支援/被害地域における農業経営体の実態調査/アンケート調査
(農園研 情報経営部)
各被災地域の実情を総合的に把握し,対象地域に応じた的確な支援内容や手法を整理するため,被害地域における農業者の実態調査を行い,震災の影響,対応,今後の方向性等の動向を把握しています。
調査概要
- 調査時期
平成23年11月
- 調査対象
沿岸地域:473経営体(H22年度経営所得安定対策参加農業経営体の50%)
内陸地域:351経営体(H22年度経営所得安定対策参加農業経営体の15%)
- 調査項目
震災による直接的被害状況,震災による経営への影響(経営継続の意向,経営再開に要する期間・経費,経営再開に対する課題),農業復興施策に対する対応,今後の農業復興に対する意見・要望,農業者戸別所得補償制度の申請状況 等
調査結果
- アンケートの回収率は,沿岸地域58.8%(278件),内陸地域51.3%(180件)の計55.6%(458件)で,その内訳は,経営形態別では個別経営体369件(80.6%),法人19件(4.1%),集落営農組織70件(15.3%)でした。
- 被害の内容により区分すると,回答のあった458経営体のうち特に被害のなかった経営体は114件で,津波による被害を受けた経営体(以下「津波被害者」)が169件,津波以外の被害を受けた経営体(以下「他被害者」)が175件であり,津波被害者では「用排水施設等の破損による作付自粛地域」,「津波による農地の塩害」,「津波による農地の破損」,「津波による農業用施設・設備・機械等の破損」,「津波による作物・家畜・生産物等の被害」の割合が他被害者に比べて高く,他被害者では「地震による農業用施設・設備・機械等の破損」,「風評被害による売り上げの低迷」,「停電・断水・燃料不足による作物・家畜・生産物等の被害」,「放射性物質による出荷停止・自粛」,「放射性物質による生産物・資材・飼料等の廃棄」の割合が津波被害者に比べて高い結果でした。
- 被害を金額換算すると,「100~500万円」が107件,「100万円未満」が72件,「1,000~5,000万円」が55件,「500~1,000万円」が50件でしたが,津波被害者で「1,000~5,000万円」,「5,000万円~1億円」の割合が他被害者に比べて高く,他被害者では「100~500万円」,「100万円未満」の割合が津波被害者に比べて高い結果でした。
- 被害のあった経営体のうち,「農業経営は継続していきたい」が302件とほとんどで,「農業経営は止めざるを得ない」は6件のみでいずれも津波被害者でした。
- 経営継続意向の経営体のうち,経営形態は「従来どおりでいきたい」が230件と3/4以上を占めましたが,「一戸法人化したい」18件,「仲間と協業(組織経営)をしたい」17件,「集落営農組織にしていきたい」14件,「仲間と法人化したい」11件と,少数ではありますが法人化・組織化の意向も見られ,経営規模については「現状維持でいきたい」が140件と半数弱でしたが,「規模を拡大していきたい」75件と「頼まれれば利用権設定や作業受託を請けたい」68件を合わせると現状維持希望を若干上回り,一方,「規模は縮小せざるを得ない」は13件のみでした。
- 本県農業を復興する上で必要な支援等としては,「助成事業の申請手続の簡素化」247件,「基盤整備の農業者負担の全額助成」233件,「補助率1/2以上の助成事業」228件,「共同ではなく個別農業者に対する助成事業」213件と助成事業に関する要望が高く,次いで「排水路・排水施設の早期復旧」210件,「被災農地の大区画基盤整備の推進」142件,「浸水農地の効率的な除塩方法の提示」136件,「農産物の放射性物質検査の徹底」101件と続きますが,津波被害者では「排水路・排水施設の早期復旧」,「基盤整備の農業者負担の全額助成」,「浸水農地の効率的な除塩方法の提示」,「被災農地の大区画基盤整備の推進」,「施設園芸の団地化の推進」,「浸水農地に作付可能な品目の提示」の割合が他被害者に比べて高く,他被害者で「放射性物質で汚染された物の廃棄方法の提示」の割合が津波被害者に比べて高い結果でした。
今回の実態調査の結果から,津波被害者からは,「大区画基盤整備の推進」が求められており,復興基本方針等で示されている「広域的で大規模な土地利用や効率的な営農方式の導入」と方向性は一致していると思われますが,同時に,「排水路・排水施設の早期復旧」,「効率的除塩」等も求められており,作付可能な圃場の早期確保等,復興期間中の被災農業経営体の生活を維持できるだけの収入源(生産基盤)を早期に確保する方策が求められていると考えられます。
また,本県農業の復興に関する意見・要望(自由記入欄)の内容からは,行政サイドからの復興計画・ビジョンや助成事業等に関する情報提供の不足・遅さに対する不満も見られ,今後より一層の迅速な情報提供が必要と考えられます。
一方,津波以外の被害者からは,「個別農業者助成」,「放射性物質対策」等が求められており,自由記入欄からは,復興支援策からの疎外感,津波被害者に対する遠慮等も垣間見られ,津波以外の被害に対する支援策等についても検討が必要と考えられます。
(平成24年3月29日掲載)
アンケート発送・回収状況
アンケート発送・回収状況表
|
全体 |
地域別 |
経営形態別 |
沿岸地域 |
内陸地域 |
個別経営体 |
法人 |
集落営農組織 |
発送件数 |
824 |
473 |
351 |
688 |
30 |
106 |
回答件数 |
458 |
278 |
180 |
369 |
19 |
70 |
回収率 |
55.6% |
58.6% |
51.3% |
53.6% |
63.3% |
66.0% |
農業経営の状況
問1 あなた(貴組合,貴社)の農業経営の部門(品目等)は何ですか。
全回答経営体458件のうち,水稲を作付けしている経営体が91.5%とほとんどで,野菜・花き・果樹の園芸部門を行っている経営体(以下「園芸部門」とする)は43.7%,酪農・肉用牛・養豚・養鶏の畜産部門を行っている経営体(以下「畜産部門」とする)は15.7%,園芸部門・畜産部門のない経営体(以下「耕種部門」とする)が43.4%でした。(園芸・畜産の両部門を有する経営体もあるため、合計は100%を超えます。)
東日本大震災の影響
問2 東日本大震災により,あなた(貴組合,貴社)の農業経営に被害はありましたか。
全回答経営体458件のうち,「特に被害はなかった」は114件で,344件が被害を受けており,被害の内容を津波による被害と津波以外の被害に区分すると,津波による被害を受けた経営体(以下「津波被害者」とする)が169件,津波以外の被害を受けた経営体(以下「他被害者」とする)が175件でした。
津波被害者で「用排水施設等の破損により作付自粛地域に指定」,「津波による農地の塩害」,「津波による農地の破損」,「津波による農業用施設・設備・機械等の破損」,「津波による作物・家畜・生産物等の被害」の割合が他被害者に比べて高く,他被害者で「地震による農業用施設・設備・機械等の破損」,「風評被害による売り上げの低迷」,「停電・断水・燃料不足による作物・家畜・生産物等の被害」,「放射性物質による出荷停止・自粛」,「放射性物質による生産物・資材・飼料等の廃棄」の割合が津波被害者に比べて高い結果でした。
問3 被害を受けたのは全体の何割程度でしたか。
- (1)農地の被害
「全農地の9~10割程度」が29.2%,「全農地の1~2割程度」が25.1%,「特に被害なし」が22.0%でした。
- (2)農業用施設・設備・機械等の被害
「施設等の1~2割程度」が32.8%,「施設等の9~10割程度」が21.2%,「特に被害なし」が18.4%でした。
- (3)作物・家畜・生産物等の被害
「特に被害なし」が30.5%,「作物等の1~2割程度」が26.9%,「作物等の9~10割程度」が22.1%でした。
問4 農業経営上の被害を金額換算するとすれば,いくらぐらいの被害だと思いますか。
「100~500万円」が33.5%,「100万円未満」が22.8%,「1,000~5,000万円」が17.4%,「500~1,000万円」が15.8%でした。
問5 あなた(貴組合,貴社)の農業経営の継続については,どのようにお考えですか。
「農業経営は継続していきたい」が92.9%とほとんどで,「農業経営は止めざるを得ない」は6件(1.8%)のみでいずれも津波被害者でした。
問6 農業経営を止めざるを得ない理由はなんですか。
経営中止意向の経営体6件は,全員が「被害が甚大で復旧経費の調達が困難」を挙げており,その他の理由としては,「市町村の復興計画上,農地が利用できるかどうか分からない」が2件,「高齢で後継者もいない」,「風評被害で売り上げが低迷している」,「以前から止めようと思っていた」が各1件でした。
問7 農業経営を止めた場合,農地はどうしたいですか。
経営中止意向の経営体6件のうち,「地域の担い手に全面委託したい」が3件,「利用したい人がいたら貸したい」が2件,「特に何もしない」,「農地は売ってしまいたい」が各1件でした。
問8 あなた(貴組合,貴社)の農業経営を継続する場合,経営形態,経営場所,経営規模,経営部門(品目等)についてはどのように考えていますか。
- (1)経営形態
「従来どおりでいきたい」が77.4%を占めますが,「一戸法人化したい」が6.1%,「仲間と協業(組織経営)をしたい」が5.7%,「集落営農組織にしていきたい」が4.7%,「仲間と法人化したい」が3.7%と,合わせて2割ではあるが法人化・組織化の意向も見られました。
- (2)経営場所
「現在の農地で営農したい」が96.7%と大多数で,「近くに農地を求めてそこで営農したい」,「移転して別の場所で営農したい」は各1.3%のみでした。
- (3)経営規模
「現状維持でいきたい」が47.0%と半数弱でしたが,「規模を拡大していきたい」25.2%と「頼まれれば利用権設定や作業受託を請けたい」22.8%を合わせると現状維持希望を若干上回り,一方,「規模は縮小せざるを得ない」は4.4%のみでした。
- (4)経営部門(品目等)
「現在の経営部門を維持していきたい」が86.1%と多く,「新しい経営部門も導入したい」7.8%,「現在の経営部門を一部止めたい」4.4%,「現在とは違う経営部門に転換したい」1.0%は少数でした。
問9 あなた(貴組合,貴社)の農業経営再開には,どの位の期間や経費がかかると思いますか。
- (1)農業経営の全面復旧までには,どの位の期間がかかると思いますか。
「もう従来の状態に戻っている」が32.4%,「今年は難しいが来年には回復できると思う」が31.4%と高く,次いで「あと2,3年はかかると思う」20.5%,「あと4,5年はかかると思う」10.9%の順でした。
- (2)農業経営再開に要する(要した)経費はどの位だと思いますか。
「100万円未満」33.4%,「100~500万円」31.7%,「500~1,000万円」12.9%,「1,000~5,000万円」12.2%の順でした。
- (3)農業経営再開に要する経費のうち,自分ではどの位までなら準備可能ですか。
「必要経費の1/4程度までなら」32.8%,「ほとんど準備できない」21.9%,「必要経費の1/2程度までなら」16.6%である一方,「ほとんど全額準備できる」も27.2%ありました。
(2)の農業経営再開に要する(要した)経費とのクロス集計を見ると,農業経営再開に要する(要した)経費が100万円未満の経営体の半数以上は「ほんとんど全額準備できる」と回答していますが,農業経営再開に要する(要した)経費が1,000万円以上の経営体では「ほとんど全額準備できる」の回答はなく,「ほとんど準備できない」の回答が約半数となっていました。
問10 今回,あなた(貴組合,貴社)の農業経営再開のために,助成事業や制度資金等を利用していますか,又は利用する予定ですか。
- (1)助成事業等
「利用していない」が54.3%と半数を占め,「東日本大震災農業生産対策交付金」18.9%,「農協等の助成事業」18.5%,「被災農家経営再開支援事業」15.8%,「市町村独自の助成事業」11.3%となっていました。
- (2)制度資金等
「利用していない」が60.6%と半数以上を占め,「農業近代化資金」9.9%,「農業経営負担軽減支援資金」,「農林漁業セーフティネット資金」が共に7.0%,「スーパーL資金」5.3%,「天災資金」5.0%,「経営体育成強化資金」4.0%となっていました。
問11 あなた(貴組合,貴社)の農業経営再開に対して,課題となっている点はなんですか。
「破損した施設・機械等の修繕・再整備」が38.7%,「浸水した農地の塩分除去」38.1%と高く,次いで「破損した農地の復旧」29.5%,「破損した排水路・排水施設の修繕」28.8%,「地盤沈下した農地のかさ上げ」25.5%であり,「風評被害の解消」も24.2%ありました。
問12 あなた(貴組合,貴社)の農業経営再開に向けて,今年新たに取り組んでいること,又は取り組んむ予定のことはありますか。
「停電に備えて発電機の導入」26.2%,「農地のかさ上げのための客土」23.2%,「浸水した農地の除塩作業」21.9%,「燃料の備蓄量の増加」15.6%,「井戸の掘削」10.9%といった取り組みが見られました。なお,具体的に記述のあった除塩作業としては「代かき」,「弾丸暗渠」,「通水」,「耕耘・砕土」,「表土除去」等,除塩作物としては「水稲」,「大豆」,「菜の花」,「棉花」,「イチゴ」,耐塩性作物としては「水稲」,「枝豆」,「キャベツ」,「ひまわり」が挙げられていました。
東日本大震災からの本県農業の復興
問13 本県農業を復興する上で,どのような復興支援が必要だと思いますか。
全経営体458件のうち,「助成事業の申請手続の簡素化」53.9%,「基盤整備の農業者負担の全額助成」50.9%,「補助率1/2以上の助成事業」49.8%,「共同ではなく個別農業者に対する助成事業」46.7%と助成事業に関する要望が高く,さらに「排水路・排水施設の早期復旧」45.9%,「被災農地の大区画基盤整備の推進」31.0%,「浸水農地の効率的な除塩方法の提示」29.7%,「農産物の放射性物質検査の徹底」12.0%と続きました。
問14 その他,本県農業の復興に関して,意見や要望等があれば,自由に記入してください。
記述のあった115件について,その内容を見ると,「具体的助成」を望む意見が46件と多く,次いで「早期復興」を望む意見が32件,「情報提供」を望む意見が12件、「放射性物質対策」を望む意見が10件でした。
具体的な支援内容としては,「個別農家助成」,「基盤整備助成」が各11件,「施設・機械等助成」が7件,「塩害・除塩支援」が6件でした。また,情報提供の内容としては,「国・県等の復興計画・ビジョンの提示」が8件,「助成事業等の情報提供」が4件でした。「放射性物質対策」の内容としては,「汚染稲ワラ等対策」が4件,「風評被害対策」が2件等でした。
なお,少数ではありますが,「被災農家に対する機械等のリース事業・機械化銀行」を望む意見(3件),「復興の費用対効果を考慮して被災農地の農業以外の利用も含めた幅広い検討」を求める意見(2件)等もありました。
また,「TPP問題」に対する意見も20件あり,その内容は,「TPP反対・不安」が13件,「TPPに関する情報提供・戦略提示」が7件でした。
農業者戸別所得補償制度
問15 今年度は「農業者戸別所得補償制度」の交付金交付申請を行いましたか。
「申請した」が84.3%と多かったですが,昨年度に実施した「戸別所得補償モデル対策・水田経営所得安定対策の影響及び効果等に関するアンケート調査」では,昨年度に戸別所得補償モデル対策に申請した経営体は602件中566件(98.6%)であり,これと比較すると若干申請率は低い結果でした。
問16 「農業者戸別所得補償制度」の交付申請した内容は何ですか。
「米の所得補償交付金」を申請している経営体が94.4%とほとんどで,「水田活用の所得補償交付金」は25.3%,「畑作物の所得補償交付金(数量払)」23.4%,「畑作物の所得補償交付金(営農持続支払)」18.1%,「規模拡大加算」6.6%でした。