農業早期復興プロジェクト/津波被災水田の実態調査と除塩法・栽培管理技術の確立/各種緊急調査を基にした圃場条件による効率的な除塩方法
(古川農業試験場 土壌肥料部)
東日本大震災により,本県の太平洋沿岸地帯の農業は津波によって甚大な被害を受け,早急な農業復興対策の提示・実施が必要となっていますが,灌漑用水を利用した除塩に必要な用水量・灌漑回数・施肥法等の実測データがほとんど無く,有る場合でも高潮等に起因したもので,津波に関連する知見が少ないため,今年度の作付けに向けた除塩作業は,試行錯誤的に実施され,今後の除塩作業に向け,適切な手法と効果検証が求められています。
ここでは,本年度は,除塩のみで営農を再開した農地について,東部地振管内で実施されている各種緊急調査データを基にして,水稲圃場の塩害~除塩~作付けまでの実態を把握し圃場条件による効率的な除塩方法を検討しています。
試験・調査概要
- 1)東部地振管内除塩事業の実態調査
- (1)調査区域
東部地振管内の除塩事業A=1,037ha(石巻市鹿又・三輪田・中野・蛇田・大瓜,東松島市浅井地内)で約10ha毎に作業内容を95圃場で調査
- (2)調査項目
除塩前後塩分濃度(作土0~10cm),代かき・落水回数,弾丸暗渠等の有無
- (3)調査先
東部地方振興事務所農業農村整備部
- 2)水稲作付け後の追跡調査
- (1)調査区域
除塩事業実施区域内(石巻市中野・蛇田・大瓜,東松島市浅井地内)の水稲6圃場(うち1圃場は津波被害のない対照区)で作付け後の追跡調査
- (2)調査項目
生育段階のEC値(上層0~10cm,下層10~20cm),水稲の生育・収量調査
- (3)調査先
石巻農業改良普及センター
試験・調査結果(状況・情報)
- 1)東部地振管内除塩事業の実態調査
- 縦浸透を促進する弾丸暗渠の実施割合は17%でした。塩分を拡散溶出する代かきの実施割合は98%で弾丸暗渠の有無に関わらずほぼ全域で代かき除塩が行われました。代かき回数は1回が26%,2回が73%,3回が1%であり,代かき2回が大多数となっています。
- 作土(0~10cm)で代かき回数別に塩分濃度の平均値を比較すると,除塩実施後の値が1回,2回共に除塩目標値0.1%程度まで低下しており,除塩実施前の塩分濃度が比較的低い場合は1回のみでも効果があると考えられます。
- 2)水稲作付け後の追跡調査
- 水稲生育段階のEC値は,圃場A,C,Dの3圃場共に上層に比べて下層の方が高く,多少の変動はあるものの除塩後のEC値でほぼ推移しています。
- 収穫時の精玄米重は,圃場A,Dで対照区(圃場F:520kg/10a)を下回りましたが,それ以外の圃場B,C,Eは対照区以上でした。
(平成24年1月13日掲載)