農業早期復興プロジェクト/津波被災水田の実態調査と除塩法・栽培管理技術の確立/水稲除塩作業時における石灰質資材施用の評価
(古川農業試験場 土壌肥料部)
東日本大震災により,本県の太平洋沿岸地帯の農業は津波によって甚大な被害を受け,早急な農業復興対策の提示・実施が必要となっていますが,灌漑用水を利用した除塩に必要な用水量・灌漑回数・施肥法等の実測データがほとんど無く,有る場合でも高潮等に起因したもので,津波に関連する知見が少ないため,今年度の作付けに向けた除塩作業は,試行錯誤的に実施され,今後の除塩作業に向け,適切な手法と効果検証が求められています。
ここでは,除塩作業時における石灰質資材の施用による塩分の排出の効果について検討しています。
試験・調査概要
- (1)試験方法
デカンテーション法による除塩試験を行いました。古川試験場G3ほ場作土に同重量の海水を処理した風乾土60gを200mlビーカーに入れ試験を行いました。石灰質資材の投入については,土壌に吸着しているNaへの影響をみるため,投入前に海水処理土壌の余分な塩分を数回蒸留水で洗い流した後に,石灰質資材を加えて混和しました。蒸留水100mlを加えて代かきし,1日静置した後,上澄み液を除塩排水として回収する除塩操作を3回行いました。
- (2)試験区の構成(各区3連)
- 石灰質資材無施用区
- 石膏 100kg/10a区,200kg/10a区,300kg/10a区,500kg/10a区
- 炭カル 100kg/10a区,200kg/10a区,500kg/10a区
調査項目
除塩排水中のNa,Ca,Mg,K,Clイオン濃度,除塩土壌のpH,EC,水抽出および酢酸アンモニウム液抽出Na,Ca,Mg,K量
試験・調査結果(状況・情報)
- 除塩排水中のpHについては,石膏区では投入量が多いほど投入直後のpHの低下がみられましたが,その後他の区と同様に上昇しました。
- 除塩排水中のECについては,他の区に比べ石膏区では投入量が多いほど高い値を示しました。
- 除塩排水中のNa濃度については,石膏投入区が他の区に比べ高い値を示しました。除塩排水1回目の排水中のNa濃度は,石灰質資材無施用区を100とした場合,石膏500kg区の133が最も高く,除塩排水3回目のNa濃度は石膏500kg区のみが石灰無施用区より高い値を示しました。
- 除塩排水中のClイオン濃度については,石灰質資材投入の影響は見られませんでした。
(平成24年1月13日掲載)
石灰質資材施用による土壌Naの排出効果
※グラフ上部に,排水回数ごとに石灰無処理区の除塩排水中のNa濃度を100とした時の石灰施用区の除塩排水中のNa濃度比を示しました。