農業早期復興プロジェクト/津波被災水田の実態調査と除塩法・栽培管理技術の確立/除塩ほ場における土壌塩分濃度と作物生育への影響
(古川農業試験場 水田利用部)
塩害を受けたほ場においては,海水が流入していることや代かきを何度も行っていることなどから,通常水田に比べ土壌還元が強まると考えられ,中干し等により土壌への酸素の供給が必要となってきます。しかしながら,除塩ほ場においては,中干しにより土壌水分が低下することで,土壌EC等が上昇し稲への影響が懸念されます。
そこで,除塩対策後のほ場において,中干しを行った後の土壌塩分濃度,生育,収量等を追跡調査し,その影響を把握します。
試験・調査概要
- 1)試験区の構成
- (1)強い中干し区(落水期間:7月7日~20日の13日間)
- (2)一時落水区(落水期間:7月7日~15日の8日間)
- (3)常時湛水区(落水期間:0日)
- 2)調査項目
土壌水分推移,土壌塩分濃度,水稲生育,養分濃度,収量等
- 3)耕種概要
- 供試品種:まなむすめ
- 実施場所:石巻市蛇田地区,前作:大豆(復元初年目)
- 代かき回数:4回,移植日:5月19日,出穂期:8月13日
試験・調査結果(状況・情報)
- 強い中干し区の土壌水分の推移は,中干し開始5日後ぐらいから低下し始め,10日以降は25%前後を推移しました。なお,古試場内における中干し区においても,土壌水分は24~25%を推移しました。
- 常時湛水区の土壌ECは,0~10cmで最も低く,深いほど高くなる傾向にあり,また,日数がたつにつれてやや高くなる傾向にありました。強い中干し区の0~10cmでは,中干しを行うことで上昇し,1.0mS/cm前後と下層部と同等となりました。
- 強い中干し区では,台風6号(7月20日)の強風により葉身等の水分が失われ葉が巻く状態になりました。その葉身の位置と枯れ上がり長の関係は,強い中干し区の水尻側では止葉-1葉で最も影響を受け,枯れ上がり長は20cm以上となりました。その他のほ場では,止葉-2葉が最も影響を受けました。今回の葉身の枯れ上がりは,強風と土壌ECの上昇という2つの要因があり,単純には解析できません。
- 収量構成要素は,復元初年目で生育量が旺盛であったため,中干し処理及び枯れ上がりの影響はあまり受けませんでした。
- 強い中干し区の前半のNa含有率は他の処理区とあまり変わらず,後半は低くなる傾向にありました。また,古試場内の一般ほ場に比べ,塩害ほ場のNaは全般的に高い傾向を示し,約4~5倍の値となりました。
以上のことから,除塩後の水稲水管理では,5~7日程度中干しを実施し,その後入水すればほぼ問題なく生育します。
(平成24年1月13日掲載)
中干しの影響
図 中干しほ場の土壌水分含量(強い中干し区)
図 土壌ECの推移(強い中干し区) 中干しにより,土壌水分は低下し,0~10cmの土壌ECは1.0mS/cm近くまで上昇。
→極端な中干しは要注意