普及に移す技術第91号/参考資料(震災関連)2
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参考資料(平成27年度)
分類名〔土壌肥料〕
緑肥(イタリアンライグラス)のすき込みが被災水田の水稲生育に及ぼす効果 - 震災復興関連技術 -
緑肥(イタリアンライグラス)のすき込みが被災水田の水稲生育に及ぼす効果 - 震災復興関連技術 -(PDF:455KB)
宮城県古川農業試験場
1 取り上げた理由
東日本大震災による津波により浸水被害をうけた農地の復旧が進められるが,除塩後のほ場においては地力の低下が懸念される。一般的には堆肥の施用により土壌の窒素肥よく度を回復させるよう指導しているが,津波被災地はたい肥等資材の賦存量が少なく困難である。
そこで,平成25年~27年の3カ年,津波被災水田において,イタリアンライグラスを水
稲作の裏作として栽培し,すき込みを行うことで水稲生育が向上し,増収したので参考資料とする。
2 参考資料
- 1)水稲作前年の10月に,ほ場を耕起後,硫安を3kg-N/10a施用,イタリアンライグラス「ハナミワセ」を5kg/10a播種し,翌年3月に硫安5kg-N/10aを追肥することで,4月中旬には1600g/m^2以上の地上部生重を確保できる(表1)。
- 2)イタリアンライグラスを地上部生重で1600g/m^2以上確保し,作付け3週間前にすき込むことで,玄米収量を無播種に比べ66~170kg/10a増加させることができる(図1)。
- 3)イタリアンライグラスの窒素無機化量は,直線的に増加し,生育後期まで肥効が持続する(図2)。
- 4)水稲は,イタリアンライグラスのすき込みにより,減数分裂期から成熟期にかけて窒素吸収量が増加する(図3)。
3 利活用の留意点
- 1)本試験は農地復旧後2年目(平成25年),3年目(平成26年),4年目(平成27年)
の2ほ場(平成26年及び平成27年は同一ほ場)で行い,両ほ場とも,津波堆積土砂が取り除かれており,砂質土壌である。また,生土30℃4週間湛水培養による土壌窒素発現量は1mg-N/100g乾土の土壌である。
- 2)作付けした水稲品種は「ひとめぼれ」である。基肥は一発型肥料6kg-N/10aを側条施肥法により施用する。穂肥はイタリアンライグラスからの窒素発現を見込み,施用しない。
- 3)イタリアンライグラスは,草丈と地上部生重との間に正の相関が認められ,草丈(平均値)が29cmで1600g/m^2の地上部生重が得られる(図4)。
- 4)イタリアンライグラスは,2300g/m^2(草丈40cm程度)までであれば一般的なロータリー耕うん機で2回以上耕起すればすき込むことはできる。しかし,さらに地上部が多くなった場合は,すき込み前にフレールモア等で細断する必要がある。
- 5)作付3週間前より遅れてすき込んだり,多量の緑肥をすき込んだ場合,土壌の強還元により生育抑制及び減収する場合がある。したがって,土壌からのガス放出が見られる場合,6月上旬~中旬に飽水管理等行い土壌還元を緩和する。
- 6)緑肥のすき込み量が1600g/m^2あれば,6000粒/m^2程度籾数は増加するが,それ以上の量をすき込みしてもばらつきが大きく籾数増加は認められない。(図5)
- 7)水稲栽培跡地土壌の窒素無機化量は2作後においてもばらつきが大きく,明確な窒素肥よく度の向上はみられない。したがって,土壌窒素肥よく度を向上させるためには少なくても,3作以上の緑肥すき込みが必要である(図6)。
- 8)イタリアンライグラスは早生品種の「ハナミワセ」を供試する。種子の価格は,約1200円/kgである。
(問い合わせ先:宮城県古川農業試験場土壌肥料部 電話0229-26-5107)
4 背景となった主要な試験研究
- 1)研究課題名及び研究期間
津波被災農地における地力回復と高品質米の安定生産のための地力増進作物導入技術の確立(平成25年~平成27年度,農産園芸環境課 事業研究)
- 2)参考データ
表1 すき込まれたイタリアンライグラスの地上部生育および炭素窒素量
図2 インキュベーションによる緑肥窒素無機化量の評価(平成25年)
図3 水稲窒素吸収量の比較(平成25年~平成27年)
図4 イタリアンライグラスの地上部生重と草丈の関係(平成25年~平成27年)
図5 水稲の増加籾数とすき込まれたイタリアンライグラス地上部生重の関係(平成25年~平成27年)
図6 連作2年目の栽培跡地土壌の窒素(N)無機化量の比較(平成27年)
- 3)発表論文等
阿部倫則・本田修三(2015),津波被災農地の除塩対策 10.宮城県の津波被災による地力減退水田への対策,日本土壌肥料学会雑誌,第86巻第5号,p441-442
- 4)共同研究機関
石巻農業改良普及センター
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