普及に移す技術第91号/第91号参考資料20
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参考資料(平成27年度)
分類名〔病害虫〕
リアルタイムPCR法を活用したイチゴ炭疽病菌潜在感染株の迅速検出法
リアルタイムPCR法を活用したイチゴ炭疽病菌潜在感染株の迅速検出法(PDF:264KB)
宮城県農業・園芸総合研究所
1 取り上げた理由
イチゴ炭疽病の感染源の多くはイチゴ苗の潜在感染株であり,防除のためには潜在感染株の早期除去が重要である。これまでに,エタノール浸漬法(SDEI)やPCR法によりイチゴ炭疽病菌の感染株の検出が行われてきたが,リアルタイムPCR解析により従来法と比較して迅速かつ高感度に潜在感染株の検出ができたので,参考資料とする。
2 参考資料
- 1)本法は,イチゴ炭疽病菌Colletotrichum gloeosporioides(完全世代:Glomerella cingulat a)を表1に記したプライマーを用いることで,特異的に検出することが可能である。
- 2)葉柄基部から抽出したDNAを基にリアルタイムPCR解析を行い,得られたCt値(PCR増幅産物がある一定量に達した時のサイクル数)から図2に示した検量線を用いて,炭疽病菌感染の有無を判定することが可能である(図1,図2,表2,表3)。
- 3)本法における菌体DNAの検出限界は50fgであり,PCR法による検出限界は1pgであったことからPCR法と比較して約20倍高く検出が可能である(図2A,表3)。また,本法は,検査に用いる植物体0.1g当たり炭疽病菌分生子濃度2×102個まで検出が可能である(図2B,表3)。
- 4)SDEI法は所要時間約2週間,鈴木ら(2012)「イチゴ炭疽病・萎黄病・疫病感染苗検査マニュアル」によって報告のある手法は3~4日で結果が得られるのに対し,本法は同等の検出感度でゲノムDNAの抽出から解析まで最短1日での検査が可能である(表3)。
表1 本手法に用いたプライマー配列
図1 サンプリング部位
3 利活用の留意点
- 1)本法は,クラウン部及び葉柄基部に感染した潜在感染株の検出方法であり,分生子飛散等による感染株での検出では検出率が低下する可能性がある。
- 2)炭疽病菌潜在感染株は,クラウン及び葉柄基部から感染し植物体内に感染していると考えられるため,検定には葉柄基部を用いる。採取した葉を水洗いし,泥や汚れを取り除き,70%エタノールで約30秒表面殺菌した後,滅菌水で洗浄し,風乾した葉から葉柄基部を約0.1gサンプリングする。
- 3)リアルタイムPCR解析を行うため,カラムを利用したDNA抽出を推奨する。その他DNA抽出キットやCTAB法を用いる場合や褐変症状の多いサンプルから抽出を行う際は,必要に応じて精製キット等を用い,ゲノムDNAの精製を行う。
- 4)SDEI法,本法ともに病原性・非病原性菌株を検出する可能性があり,それらの識別には,鈴木ら(2012)による感染苗の検査法が有効である。
- 5)検査にかかる費用は,SDEIと比較して高額で,1検体当たりの消耗品はDNA抽出の際にDNeasy Plant Mini Kit (TaKaR a)を使用した場合,約540円(単価27000円/50検体),PrepMan Ultra Regent (Life Technologies)を利用した場合,サンプル精製キットを合わせて約238円(DNA抽出キット:単価15000円/200検体,サンプル精製キット(Fast Gene DNAextraction kitを用いた場合):単価12000円/100検体,他,チップ,酵素代等)程度の検査コストとなる。
(問い合わせ先:宮城県農業・園芸総合研究所 バイオテクノロジー開発部 電話022-383-8131)
4 背景となった主要な試験研究
- 1)研究課題名及び研究期間
病害虫の定量的遺伝子診断技術の開発と防除への応用(平成25~26年度)
遺伝子診断を活用した土壌病害対策支援技術の開発(平成27~27年度)
- 2)参考データ
図2 リアルタイムPCR 解析による検出結果(Ct値)と菌体DNAとの相関性
表2 炭疽病斑形成株におけるリアルタイムPCR解析
表3 炭疽病菌人工接種株における潜在感染株の検出比較
- 3)発表論文等
- a 関連する普及に移す技術
イチゴ炭疽病の防除(第60号参考資料)
- b その他
大坂正明・瀬尾直美・大場淳司・辻英明(2015),リアルタイムPCR法を用いたイチゴ炭疽病菌Colletotrichum gloeosporioidesの検出,日植病報第82巻(講要),p40-41
- 4)共同研究機関
なし
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