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プルサーマルの問題は、「国際的な道義に反する」「必要性に疑問」「安全性の問題」というこの3つが挙げられますが、どちらかというと、安全性に関心が集中しています。確かに安全問題は大事ですが、プルサーマルは、長年にわたる日本の原子力政策の矛盾がここへきて現れてきたものです。安全性の問題に入る前にまず、この根本的な問題を議論する必要があると思います。
プルトニウムを利用するには、核燃料サイクルという仕組みが必要です。取り出したプルトニウムを燃料に加工して、また発電に回すことを繰り返すサイクルです。プルトニウムを燃料にするために考え出された原発は高速増殖炉です。高速増殖炉で使うのがプルトニウム利用です。核燃料サイクルは高速増殖炉のための仕組みで、今の原発には本来要らないものです。使用済ウラン燃料のプルトニウムを今の原発で1度しか使わないプルサーマルは、本当の意味で核燃料サイクルとは言えません。
今の原発(軽水炉)は、軽水で減速させた遅い中性子(熱中性子)を燃えるウランにぶつけてエネルギーを出します。高速のままでぶつけるよりも、何百倍も燃えやすい(核分裂を起こしやすい)からです。
しかし高速増殖炉の場合は、高速中性子のままプルトニウム239にぶつけます。減速をせずにまた次のプルトニウム239にぶつけ、連鎖反応を起こすというわけです。効率が悪いのに、なぜ高速の中性子で核分裂をさせるかというと、中性子が高速じゃないと増殖ができない、つまり燃料の生産量が消費量より多くならないからです。プルトニウムは天然にありませんから、プルトニウムの生産量が消費量より少なければ燃料が補給できなくなり、プルトニウムを燃料とする原発が成立しません。逆に増殖が可能なら、計算上では軽水炉の何十倍もウラン資源を有効利用できることになります。この資源的魅力で日本では高速増殖炉開発に重点を置いてきました。しかし、危険性は大きく、経済的に成り立たない上、核兵器製造につながるため、日本より先行していた各国はすべて、高速増殖炉開発から撤退しています。
プルサーマルの必要性は、以下の3点といわれます。ひとつ目は「資源の有効利用」。これは資源投入量と回収されるものとを考えますと、そうとは言えません。ふたつ目の「余剰プルトニウムの焼却」です。もっともな理由に聞こえますが、ではなぜ再処理工場で余剰のプルトニウムを作り出そうとしているのでしょうか。全く矛盾していてこれも説得力を持っていません。三番目の「高レベル放射性廃棄物の低減」については、プルサーマルと直接関係ありません。放射性廃棄物の処理処分の問題です。プルサーマルの利点と再処理の利点を混同しないでいただきたいのです。
日本では安全性よりも経済性を優先した方針だと言えます。プルサーマルだと制御棒の制御効果が低下しますが、フランスのように改造して数を増やすことはやりません。日本のプルサーマルは外国に実績のない内容です。燃料におけるプルトニウムの含有率、あるいは富化度(燃えるプルトニウムを入れる割合)は、国によって違います。日本の場合、含有率13%、燃えるプルトニウムだけで8%という数値なんです。ところがフランスは7.08%。日本が突出して高い。こういう含有率でプルサーマルで使ったという実績は外国にはありません。日本が初めてです。これを実証する試験をやった形跡もありません。
プルサーマルは、今の原発が持っている安全余裕を削ることになります。そして始まった後で危険がどんどんエスカレートすることにもなります。それから使用済みMOX燃料の処遇を決めないまま見切り発車されることになります。六ヶ所再処理工場はガラス固化体の製造に失敗して停止したままで、その運転実績を参考に検討する使用済MOX燃料の再処理工場が作られるのか、見通しが立っていません。
プルサーマルは、資源節約やエネルギー問題とは関係ありません。もんじゅ事故で破綻した原子力政策の失敗を隠蔽(いんぺい)し、そのツケを原発立地地域と六ヶ所村に押し付けるものです。そして核兵器の材料であるプルトニウムの大量使用、大量流通に踏み出すことになり、それは周辺諸国を恐怖させ、世界の情勢を緊張させ、国際道義に反することです。
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