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南原穴堰が掘削されたのは正保の頃(1644~1647)とされていることから,築造から370年が経過しています。取水口,出口もそのままですので,かなりの修復や改修が施されて現在に至っています。
開削以降は,住民らによる慣行的な水利集団が維持管理を担ってきましたが,1958年(昭和33年)に永続的な組織である「南原穴堰水利組合」が発足しました。維持管理の代表的なものは「春普請(はるふしん)」と呼ばれ,平野部では「江払い」といわれる水路の清掃・整備です。現在では開水路部の土砂排出,狭間(穴堰とつながり土砂の排出等を行うための横穴)の落とし板(仕切り板)の交換がその主な仕事となっています。かつては,隧道の中の土砂の排出や立小羽(タテコバ:狭間に設ける水路への土砂の流入を防ぐ木製の柵)の交換など多くの労力を要する作業でした。
春普請の様子
土砂の排出は,狭間から隧道に入り,壁面の凹部に灯をつけ,積もった土砂や木の葉をさらい,狭間から掻き出すのですが,場所によっては天井近くまで積もった土砂を腰をかがめて崩し,排出しなければなりません。天井から水滴が落ちてきて次第に衣服までしみ込んできますし,水温は10度ほどで足は冷たくかじかむほどだったといいます。全行程の作業が終わるまで1週間から10日間かかることもあったといいます。これを毎年繰り返してきたわけです。
このような作業の過酷さから南原穴堰水利組合が発足してからは,主な施設の恒久的な改修工事に積極的に取り組んでいくようになります。富ノ巣狭間の石垣造り(昭和34年),東遠鈴沢水路の一部の石垣造り(同38年),穴口の凍害防止にヒューム管設置(同42年),不用となった狭間の永久閉鎖に踏み切ったのです。昭和50年に,1号,3号,4号,6号狭間を閉鎖しました。同51年には5号狭間(命ブタ)の閉鎖と7号狭間(勘兵衛),富ノ巣狭間の改修を行い,その際は生コンを袋に詰めて道路から背負いあげたというかなり重労働だったようです。同52年には穴口前の余水吐の廃止,堤防の補強,2号狭間と平堰東狭間の改修を行いました。
維持管理費について水利組合設立当初は組合員らの賦課金のみで賄ってきましたが,上述のように維持管理内容が昭和50年代頃から拡大したため,鳴子町へ陳情し補助金の申請を行うようになりました。特に,数カ所の不用狭間の永久閉鎖の工事には多大な費用が必要であり,組合員への経済的負担が大きく,補助を町へ要請したことにより工事が可能となりました。
昭和61年に不用狭間の永久閉鎖をすべて終え,「各狭間漏水なし,工事成功,水不足はなくなった」と組合員は大いに喜んだそうです。350年の労苦から完全に開放されたという思いは格別なものだったと思います。
南原穴堰各地点の位置図(南原穴堰水利組合『南原穴堰』より抜粋し編集。)
現在では,7号(勘兵衛)狭間と平堰東狭間の2つの狭間で春普請の水路清掃の一週間間ほど前に狭間のゲートを上げて水を通し,水圧で隧道内部の土砂排出を行っています。
狭間による土砂排出
平成19年からは国の「農地・水・環境保全対策事業(現在の多面的機能支払交付金)」が始まりました。そこで,水利組合の構成員等を中心に,新たに多面的機能支払交付金の活動組織「南原ホタルの里保全の会」を結成し,本事業の活用により,用水路等の管理補修等に対応するほか,農地の環境保全活動にも取り組み,水利組合と連携して南原穴堰のみならず,集落全体の活性化に向けた取り組みを展開することとなりました。
「南原ホタルの里保全の会」の紹介看板
現在では,南原には「南原ホタルの里保全の会」のほか,穴堰の維持管理を行う「南原穴堰水利組合」,地域のため池の維持管理を行う「堤水利組合」,「中山間ふるさと・水と土の保全対策事業」の活動組織「南原ホタルの里保全隊」という組織があり,構成員は重複していながらも活動・役割を分担し集落の農村環境を守っています。
各組織の連携体制
南原は古くから夏に多くのホタルが飛び交う「ホタルの里」であり,組織ではホタルの生育環境整備も実施しています。
ホタルの生息池
諸活動として主に維持管理について触れてきましたが,大崎地域が世界農業遺産に認定されてから,南原にも少しずつ外部の人々から関心が高まってきているようで,現地視察や農作業への有志で現地を訪れる人も見られるようになったそうです。
また,近年,南原集落では寒冷な気候に対応した稲作として,低温に強い品種の「ゆきむすび」を一部の田んぼで作付し,そこで生産された米は中山平温泉駅近くの店舗でおむすびとして販売され好評を得ているほか,例年,収穫作業を通した都市住民らとの交流の場も設けられています。
「ゆきむすび」を使ったおむすびを販売する店舗
この他にも,集落ではブルーベリーの栽培や畜産業も盛んで,厳しい自然環境に置かれながらも穴堰を中心に,その環境に対応した地域づくりがなされてきたため,地域資源がたいへん豊かな場所となっています。
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