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掲載日:2021年11月16日

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普及に移す技術第93号/普及技術8

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普及技術8(平成29年度)

分類名〔病害虫〕

大麦リビングマルチを利用したキャベツのIPM体系

大麦リビングマルチを利用したキャベツのIPM体系(PDF:428KB)

宮城県農業・園芸総合研究所

1 取り上げた理由

キャベツをはじめとする露地栽培のアブラナ科野菜は,害虫の発生種および発生量が多く,商品価値を減じる被害が生じやすい。そのため,化学合成農薬の使用を削減した防除体系を構築することが難しい作物ではあるが,リビングマルチはキャベツ害虫に対して抑制効果を示し,総合的病害虫管理(IPM)技術において有効な手段となりうることを普及に移す技術第86号で参考資料として示した。そこで,大麦をリビングマルチとして利用し,他の防除手段と組み合わせることでIPM体系を構築し,化学合成農薬の半減が可能となったことから普及技術とする。

2 普及技術

  • 1)IPM体系(夏どりキャベツ)
    大麦によるリビングマルチを利用した夏どりキャベツのIPM体系を図1に示す。
    リビングマルチを利用した夏どりキャベツのIPM体系図
  • 2)IPM体系(冬どりキャベツ)
    大麦によるリビングマルチを利用した冬どりキャベツのIPM体系を図2に示す。
    リビングマルチを利用した冬どりキャベツのIPM体系図
  • 3)大麦の害虫抑制効果と刈込み時期の目安
    • a)大麦をリビングマルチとして利用することで,モンシロチョウ,ヤガ類(ウワバ類,オオタバコガ),微小害虫(アブラムシ類,ネギアザミウマ)のキャベツへの寄生を概ね1/3~1/2程度に抑制することができる。コナガに対しては抑制効果が劣る(普及に移す技術第86号参考資料)ため,特にコナガの発生が多い圃場では,交信攪乱剤及びBT剤を併用すること。また,大麦の生育初期には害虫抑制効果が劣るため,定稙苗の殺虫剤灌注処理と併用すること。
    • b)大麦をリビングマルチとして取り入れた場合には,キャベツへの日射量が抑制されて収穫物が小玉化する場合がある。これは大麦の草高がキャベツ草高(畝高含む)を超えないように,大麦を刈り込むことによって回避することができる(図3,4,表1,2)。
    • c)大麦を刈り込んだ場合でも害虫抑制効果は,刈り込まない場合と同程度認められる(図5)。

3 利活用の留意点

  • 1)本成果は,中耕無しでは,黒ポリマルチ使用,ベッド幅100cm,通路幅50~80cm,株間30~40cm,中耕有りでは,ポリマルチ使用無し,ベッド幅30cm,通路幅30cm,株間40cmの栽培条件で得られたものである。
  • 2)黄緑色LEDランプ(商品名:レピガードシャイン,(株)ネイプル製)は本ぽにおいて,薄暮~薄明にかけて毎日点灯すること。本ランプが発する波長(ピーク570nm)によりヤガ類は明順応を起こし,交尾や産卵活動が阻害され,ほ場内での密度が抑制される(図6)。レピガードシャインの初期設置費用は,約25万円(バッテリー,ソーラーパネル,LEDランプ10個
  • (10a分)含む)である。また,本LEDランプの寿命は,1日13時間,年間4ヶ月使用した場合には約13年である。
  • 3)交信かく乱剤(商品名:コンフューザーV)は,ヤガ類及びコナガの交尾を阻害し,ほ場内での密度を抑制する(図7)。圃場内に支柱を立てディスペンサーを巻き付けて設置する。本剤は小面積の設置では効果を示さないので,少なくとも30a以上の面積に設置すること。10a当たりの本資材費は約11,500円(100本設置)~23,000円(200本設置)である。
  • 4)夏どり栽培では梅雨入り以降に,冬どり栽培では秋雨時に軟腐病,黒腐病,菌核病等の病害が発生しやすい。病害対策として,無機銅剤を主体に殺菌剤散布を行い,降雨状況や病害の発生状況に応じて化学合成殺菌剤を併用することで,大幅な農薬削減が可能となる(表2)。また,根こぶ病発生ほ場では定稙前にアミスルブロム水和剤(商品名:オラクル顆粒水和剤)等の殺菌剤を使用すること。
  • 5)夏どり栽培では大麦「てまいらず」は7月中旬頃から倒伏してくるので,倒伏状況に注意しつつ刈込みの要否を判断する。地域や気象条件によっては倒伏が遅れる場合もある。また,リビングマルチ用大麦では「百万石」が「てまいらず」より早く枯れあがる。冬どり栽培では大麦は倒伏しないので,栽培終了後速やかに刈り込んでほ場にすき込む。
  • 6)大麦を刈り込んだ場合でも,雑草抑制効果は大麦を刈り込まない場合と同程度に示される。
  • 7)大麦「てまいらず」は,約750円/kgである。大麦は通路部分10a当たり10kgの播種が必要なため,キャベツ圃場の場合には概ね1/3~1/2が通路部分となる。その場合,使用する大麦は3~5kgとなり,費用は2,250円~3,750円である。

(問い合わせ先:宮城県農業・園芸総合研究所 園芸環境部 電話 022-383-8246)

4 背景となった主要な試験研究

  • 1)研究課題名及び研究期間
    • a 食料生産地域再生のための先端技術展開事業「食料生産地域再生のための土地利用型営農技術の実証(露地園芸技術の実証研究)」(平成26~29年度)
    • b 農生態系内の生物多様性向上による総合的病害虫管理技術の開発(平成26~29年度)
  • 2)参考データ
    大麦草高
    キャベツ草高
    キャベツ調整重
    キャベツ調整重
    害虫抑制効果
    黄緑色LEDによるウワバ類抑制効果
    交信かく乱剤によるウワバ類抑制効果
    農薬費節減効果
  • 3)発表論文等
    • a 関連する普及に移す技術
      • a)寒玉系キャベツの夏まき冬どり栽培技術体系(第90号普及技術)
      • b)リビングマルチによるキャベツ害虫類の密度抑制効果(第86号参考資料)
    • b その他
      • a)関根崇行,猪苗代翔太,鈴木香深,増田俊雄(2018) タマネギおよびキャベツ栽培におけるリビングマルチを活用したIPM体系の検討,第62回日本応用動物昆虫学会大会発表予定
      • b)関根崇行(2017) キャベツおよびタマネギ栽培におけるリビングマルチを活用した害虫抑制効果と土着天敵利用の今後の課題,第27回天敵利用研究会発表
      • c)増田俊雄(2009) 被覆植物混植によるモンシロチョウの産卵抑制とキャベツ害虫に対する影響,北日本病害虫研究会報 60:208-211.
      • d)増田俊雄(2008) 被覆植物の混植によるキャベツ害虫の密度抑制効果,北日本病害虫研究会報 59:153-157.
  • 4)共同研究機関 なし

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お問い合わせ先

農業・園芸総合研究所企画調整部

名取市高舘川上字東金剛寺1(代表)

電話番号:022-383-8118

ファックス番号:022-383-9907

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