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日本三景とは、すなわち日本で「素晴らしい景色をめでることができるベスト3」のこと。その3つのうちの1つが宮城県の松島です。この景色を視覚障害がある人(全盲)がどれだけ楽しめるか?「見えないと無理だわ」と諦めている方もいるかも知れません。「一度は訪れたい」と多くの人が思っているであろう松島で、温泉での一泊も加えたちょっと贅沢な旅の計画を立てました。
JR仙石線松島海岸駅から徒歩5分→松島観光協会インフォメーション→日本三景松島散策(観光ガイドと共に2時間)→瑞巌寺(観光ガイドと共に1時間)→遊覧船で松島湾巡り(1時間)→松島温泉の旅館(泊)
JR仙石線松島海岸駅に降り立ち、海岸方向に向かいます。
写真1 JR仙石線松島海岸駅正面
松島観光協会でボランティアガイドからの説明を受けます。松島湾の地理について手を取って教えてくれたのがとてもわかりやすい!
写真2 松島観光協会でボランティアガイドから説明を受ける様子
ボランティアガイドの方と「視力はどの程度ですか?」「松島は初めてですか?」など、顔合わせを兼ねた確認をお互いに行なった後、松島散策に早速出発です。
今回の旅では、ボランティアガイドの方々にお世話になりました。見えない人・見えにくい人が旅先で観光地を巡る時、あらかじめガイドの手配をしておくと現地での楽しみが広がります。
ボランティアガイドの相談に応じている団体や依頼方法、料金などはその土地・その訪問先によってさまざまなようです。ぜひ、訪問先の観光協会などに問い合わせてみると良いでしょう。
観瀾亭(触れる仁王島)→五大堂→水主町(かこまち)→三聖堂→瑞巌寺
目で見てその美しさに見とれるという松島の風光明媚な景色を視覚障害がある人、とくに全盲の人がどれだけ楽しめるか?さまざまなニーズを持つ観光客への情報提供がまだまだこれからという現状では楽しむための材料をいかに見つけるかがポイントです。
そんな中、画期的とも言えるものをここ観瀾亭で見つけました。それはこの「触れる仁王島」。岩の形の特徴をしっかり触って確認し、イメージを掴むことができます。
写真3 観瀾亭にあった、石でつくられた仁王島の模型
五大堂へと続く朱色の欄干が印象的なこの橋は、透かし橋となっています。白杖で慎重に一歩先を辿りながら、透かし橋を歩いてみました。無事渡り終えた達成感はひとしおでした。
写真4 五大堂の透かし橋を歩いてみた
瑞巌寺は、専門の観光ガイドの案内で訪れました。瑞巌寺は現在、平成20年の秋に始まった「平成の大修理」の真っ最中。そのため、本堂など通常の拝観順路は閉鎖中でしたが、その分、庫裡(くり)など普段は一般の観光客に公開していない場所を巡ることができるようになっていました。そんな拝観順路の中から、「手で観る旅」「視覚障害がある人の旅」として興味深かったスポットをご紹介します。
松島は東日本大震災での大きな被害は免れたそうですが、それでも瑞巌寺参道あたりにも津波が来たとのことです。そのため、総門から続く参道の杉木立の一部も海水の影響で木が衰えてしまい、やむなく伐採せざるを得なかったそうです。そんな切り株が残されていました。
触ってみることで、いかに大きな杉の木であったか想像できました。
写真5 瑞巌寺参道杉並木の中に残された切り株
瑞巌寺の東西に横たわる岩山に掘られた洞窟群があります。慈覚大師円仁がここ松島にお寺を創建した平安時代初期に始まる瑞巌寺の歴史的変遷を知ることができるのがこれらの洞窟群だそうです。
写真6 岩山の洞窟に触れる
江戸時代になって瑞巌寺は伊達家の菩提寺となっています。本来は本堂に安置されている本尊および政宗公・忠宗公の位牌は平成の大修理の期間中、大書院で特別に公開されています。弱視の人であれば、近い距離で見ることができる絶好の機会となっています。
写真7 本尊および政宗公・忠宗公の位牌
国宝の庫裡も、平成の大修理期間中、特別公開されており、中に入ることができました。
写真8 庫裡の建物写真
松島めぐりの締めくくりとして、遊覧船に乗ってみました。風の強い日でしたが、船のデッキに立つと波の音、風の勢い、太陽の光などを感じることができました。
観瀾亭で仁王島の模型を触った記憶は、船が仁王島のそばを通っているという船内アナウンスを聞き、どんな島なのかイメージを描くのにとっても役に立ちました。
写真9 遊覧船仁王丸
写真10 直売店の方に手をとってかき殻むきの仕方を教えてもらっている
写真11 かきバーガーのアップの写真
写真12 かき丼を食べるモデル
日本三景の松島を視覚障害がある人、とくに全盲の人がいかに楽しむか…、楽しめるか…?まだまだ解決すべき課題は多いものの、その解決の糸口が少しつかめたような今回の松島めぐりでした。
言葉による説明、手で観てイメージをつかむことができる立体的な地図、そして実際に足で歩きながら風や音や光を感じる体験……。そんな組み合わせによって、楽しい旅、思い出深い旅が宮城県でも当たり前にどんどんできるようになるといいですね。
旅には宿泊がつきもの。
障害があると、慣れない場所での宿泊にためらいを感じ、日帰りで行くことができる範囲でお出かけするという方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、宿泊施設のスタッフに援助してほしいことをうまく伝え、スタッフの方にもサポートの仕方や工夫を知っておいていただくことによって、視覚障害がある人の旅のメニューが広がり、安全・安心で充実した旅を計画することにもなるでしょう。
今回の松島の旅では、松島温泉にある1泊2食付きのお宿でのんびりステイを楽しみました。
松島海岸の遊覧船発着所前から宿までの移動には温泉宿の送迎車を利用。宿によっては最寄りの鉄道駅や主要な観光施設からの無料での送迎を行なっているところもあります。旅の計画を立てる段階で、宿泊施設に問い合わせると良いでしょう。
写真13 送迎の車で宿に到着。車を降り,スタッフから出迎えを受けている
写真14 スタッフのサポートを受け,宿泊施設玄関からロビーへ移動
所定の宿泊者カードに氏名や住所などを記入することも視覚障害がある人にとっては難しい場合が多いのですが、そんな時はスタッフの方に頼んでみると、多くの場合、快く代筆してもらうことができます。
写真15 宿泊者カードへの記載をスタッフが代筆
客室に案内されたら、各種設備の使い方について詳しく説明をうけておきましょう。とくに電話機やエアコンの操作盤については、どこにあるのか、どのようなボタンがあるのかなどについて、必要に応じて手を取ってもらいながら説明してもらいましょう。
写真16 スタッフから客室内の電話機の使い方の説明を受ける
写真17 客室内のエアコンの操作盤の使い方の説明を受ける
今回は、宿泊の予約を宿に入れる際にあらかじめ相談をすることによって展望浴場への誘導をしてもらうことができました。
写真18 展望浴場でスタッフから浴槽や設備の説明を受ける
写真19 展望浴場で入浴
食事の際も、メニューの説明をはじめとするちょっとしたサポートを頼んでみましょう。
写真20 スタッフから料理の説明を受ける
写真21 スタッフに小なべの調理をお願いする
「おみやげ選びも旅の楽しみの1つだよね」とお思いの方もいらっしゃるでしょう。宿泊施設にはおみやげショップを設けているところが多いですが、時間の余裕を持ってスタッフの方にショッピングのサポートを依頼するのも良いでしょう。
写真22 おみやげものコーナーでスタッフから、手を取って案内してもらいながら商品の説明を受ける
鉄道や飛行機、あるいは宿泊施設で接客に携わるスタッフがサポートしてくださると、移動や旅行のバリアを減らす上で大きな力になります。
とくに、「情報入手の障害」とも言われる視覚障害がある方にとって、例えば移動時のサポートの方法、椅子への案内の仕方、テーブルの上にあるものの説明のコツなどをスタッフの方に知っておいていただけると、安全・安心・スムーズな旅行が実現します。
視覚障害がある方自身も、どんなサポートがあると充実した旅行ができるのか、経験を積み重ねながら、具体的に伝えられるようになるといいですね。
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