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平成16年3月25日命令書交付
(この命令は労働組合法に基づく和解の認定により失効しています。)
本件は,会社が昭和63年度から各年度1回実施している「昇職試験」及び「昇格試験」(これらを併せて「昇進試験」という。)を,会社S車両所に勤務するX組合S車両所支部所属の組合員が受験しても,昭和63年度から平成5年度までの6回の昇進試験で,わずか数名しか合格していないのに対し,会社S車両所に勤務するA組合所属の組合員が同試験を受験すると,高い合格率で合格していることから,X組合ら組合員が昇進試験に合格しないのは,会社が昇進試験制度を隠れ蓑として行っている不利益取扱い及び組合の弱体化を意図した支配介入によるものであるとして,救済申立てが行われた事件である。
労働組合法第27条の規定にいう「使用者」とは,法律上独立した権利義務の帰属主体であることを要するが,仙台支社は,企業主体である会社の組織の構成部分にすぎず,法律上独立した権利義務の帰属主体であるとは認められないため,「使用者」にはあたらない。
会社の昇進試験制度は,昭和63年度から毎年度実施されており,当該試験の合格者は翌年の2月1日付けで昇進発令がなされていることから,会社が行っている毎年度の昇進発令に係る一連の行為は,各年度ごとに試験の合否が決定した後に,試験が実施された翌年の2月1日に昇進発令がなされた時点で完結する1回限りの独立した行為であると認められ,平成2年度以前の年度における昇進試験に係る申立ては,労働組合法第27条第2項の除斥期間を経過していることから,却下する。(平成4年(不)第1号事件)
1次試験の合否判定には,勤務成績が加味されており,勤務成績の一次評定者である助役のほとんどが,会社と協調関係にあるA組合の組合員であり,各社員の所属組合を把握していたと認められ,X組合組合員に対して,公正な評定が行われたか疑問が残る。
勤務成績の評定項目について,運用基準や評価基準が明らかにされていないため,評価者による恣意的な評価がなされる余地がある。
会社は,昇進試験問題を一切公表しておらず,昇進試験の結果から昇進試験の公正性が確保されていたのかについて確認することはできない。
以上のことから,本件昇進試験において,会社がX組合組合員に対して,所属組合による差別的な運用を行った可能性は否定できないと判断される。
会社S車両所における昭和63年度から平成5年度までの昇進試験の合格率について,X組合組合員とA組合組合員との間には,昇進試験の合格率に顕著な格差が認められる。
組合員数及び昇進試験の受験者数について,両組合とも比較検討するに十分な人数を有しており,大量性は認められる。
A組合の組合員の大部分は,もともとX組合の組合員であり,両組合員の間で,会社採用時の学歴にも差はないと認められることなどから,X組合組合員とA組合組合員との間に等質性が認められる。
以上のことから,本件の場合,大量観察方式により立証するための前提条件となるX組合組合員とA組合組合員との間の大量性及び等質性が認められることから,大量観察方式による立証を採用することとする。
会社の常務取締役や社長の発言から,会社は,会社の方針に反対しているX組合を敵視するとともに,会社と協調関係にあるA組合とは,友好的な関係にあったと認められる。
本件救済請求者におけるX組合脱退後の昇進試験の合格状況をみると,ほとんどの者がX組合脱退後間もない期間で,昇進試験に合格しており,会社がX組合を脱退した者については昇進試験に合格させるという意図的な運用を行っていたとの疑いが持たれてもやむを得ないものがある。
以上のことから,会社は,会社の方針に非協力的なX組合を嫌悪し,これを排除するとともに,会社と協調関係にあるA組合を優遇する意図をもって,本件昇進試験について所属組合による差別的運用を行うことにより,X組合組合員とA組合組合員との間に昇進試験合格率に格差を生じさせ,X組合組合員を昇進させないという不利益な取扱いをしたものであり,会社は,不当労働行為意思を有していたと認められる。
不受験者は,受験資格欠格者と異なり,受験資格が何ら制限されていないにもかかわらず,昇進試験を受験しなかったものであることから,自らの意思で受験機会及び昇進機会を放棄したものとみなすのが妥当であり,会社の不当労働行為により,昇進試験を受験できなかったものであるとは認められない。
よって,不受験者に係る申立ては理由がなく,これを棄却する。
組合バッジ着用を理由とする訓告処分の不当労働行為性について,当委員会は,平成6年(不)第1号事件の命令で労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為である旨判断しており,本件でも背景的な事実は,基本的に共通している。
また,組合バッジ着用による訓告処分についても,会社がX組合の弱体化を意図して行った一連の行為であると推認される。
よって,本件においても組合バッジ着用を理由とする訓告処分自体がX組合の弱体化を意図した支配介入であると認められることから,このような不当労働行為による訓告処分を受けたことを理由として,昇進の唯一の機会である昇進試験の受験資格を奪うことも,X組合に対する支配介入として不当労働行為に該当すると認められる。
本件昇進試験の合格率にはX組合組合員とA組合組合員との間に顕著な格差が存在し,両組合員の間には,大量観察方式による立証に必要な,大量性及び等質性も認められる。そして,会社はX組合を嫌悪し,排除する意図を有していたことから,会社の不当労働行為意思が推認される。
一方で会社から,当該昇進試験結果における格差の合理性について,十分な立証はなされていない。
よって,会社が本件昇進試験制度を所属組合により差別的に運用し,X組合組合員の昇進について不利益に取り扱った行為及び組合バッジ着用を理由とする訓告処分により,X組合組合員の昇進試験受験資格を奪った行為は,労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると認められる。
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