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掲載日:2022年3月3日

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宮城労委平成30年(不)第1号事件

令和元年11月18日命令書交付

(この命令は労働組合法に基づく和解の認定により失効しています。)

<中央労働委員会関係命令・裁判例データベース>
労働委員会命令データベース(https://www.mhlw.go.jp/churoi/meirei_db/mei/m12035.html)(外部サイトへリンク)

1.事件の概要

本件は,
団体交渉において,申立人が被申立人に対し要求した財務状況等の資料を提供しなかったこと,
被申立人と申立人が締結した確認書に関して被申立人が団体交渉で申立人の質問に誠実に回答しなかったこと,
申立人の団体交渉申入れに対して被申立人が申立人の希望する日程で応じなかったこと,
申立人が提出した質問要求書に対して被申立人が団体交渉等で誠実に対応しなかったこと
などが,労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するとして,救済が申し立てられた事件である。

2.命令主文の要旨

  • (1)被申立人は,申立人との間で有期雇用職員の無期転換に関する団体交渉を行う場合において,希望者全員を無期転換した場合の財務の見通しなどに関する質問に対して,無期転換を希望する人数を踏まえるなどした資料を提示した上で,人件費や財務への影響について具体的に説明し,誠実に対応しなければならない。
  • (2)被申立人は,命令書写しの交付の日から10日以内に,申立人に対して,今後不当労働行為を繰り返さない旨の誓約書を交付しなければならない。
  • (3)申立人のその余の申立てを棄却する。

3.判断の要旨

(1)被申立人が下記の対応をした事実は認められるか。また,その事実が認められる場合に,そのような対応は労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。

ア申立人の要求した他大学と異なる被申立人の財務状況に関する資料を提供しないこと

被申立人は,職員の年齢構成のピークが30代,40代であり,20年後に人件費のピークが訪れることが,他大学と異なる特徴であると説明した旨主張しているが,他大学のデータは持っていないという被申立人の説明からも明らかなように,職員の年齢構成について,他大学との比較を行ったとは認められない。また,財務状況に関しても,他大学との比較を行った事実は認められない。

しかし,他大学の財務状況に関しては,財務諸表や決算報告書などに記載されている概括的な情報は公開されているとしても,職員の雇用管理に関する情報や財源の具体的な使途等,比較分析を行うために必要な情報まで公開されているものではなく,また被申立人が入手可能であったとする特段の事情も認められない。

よって,被申立人が,他大学と異なる財務状況を説明することが可能であったとは認められない。このような状況において,他大学との比較資料を提供しなかったとしても,誠実交渉義務に違反する対応であるとまではいえず,労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するとはいえない。

イ申立人の要求した有期雇用職員を無期転換できない理由についての資料を提供しないこと

被申立人は,希望者全員の無期転換という申立人の要求を受け入れられない理由として,正職員の人件費が逼迫した財務状態にあることや運営費交付金が減少していることなどの一般的・抽象的な理由を説明したにすぎず,希望者全員を無期転換した場合に増加する将来の人件費の額,被申立人の予算に占める増加額の割合(影響度)といった事項については明らかにしておらず,これらの事項を具体的に検討したことは窺えない。仮にこれらの事項について,被申立人が具体的に検討し,申立人に情報を提供していれば,申立人は,それを前提に自身の要求の実現可能性を判断し,他の財源を割り当てる,あるいは無期転換の要求を一定程度縮小するといった対案を検討するなどして被申立人と交渉することも可能であった。すなわち,被申立人が,申立人の要求を具体的に検討していないことにより,申立人に対して労使対等交渉に必要な情報が開示されず,労使対等交渉が妨げられていたことが認められる。

また,被申立人は,団体交渉において,有期雇用職員の全員を無期転換し,一人も退職せずに勤務し続け,定年後も再雇用されるというシミュレーションを資料によって示し,人件費が増大する旨を説明しているが,このシミュレーションは,有期雇用職員のうち実際に無期転換を希望する者の割合や退職者等が発生することを全く考慮しておらず,シミュレーションとして不十分なものである。確かに,被申立人が団体交渉において述べたように,現状の雇用継続のデータを基準にシミュレーションを行うと誤りが発生することは否定できないが,そのように考えていたのであれば,実際にどの程度の有期雇用職員が無期転換を希望しているのかを調査するなどして,より精度の高いシミュレーションを行うことも可能であったと考えられる。しかし,被申立人は,団体交渉で資料の提供については検討させてほしい旨回答したにもかかわらず,以降の団体交渉でそのような資料を提供することもなく,従前の団体交渉で配付した資料と同一の資料に基づき説明を行うという対応を取っており,財務の見通しを誠実に説明しているとは認められない。

このような被申立人の対応は,労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たる。

ウ被申立人と申立人が締結した確認書に関する申立人からの質問に対して,団体交渉において,被申立人が,「弁護士と相談する」と述べ,回答を拒否したこと。

団体交渉の場で被申立人は弁護士と相談する旨述べて最終的な回答を行っていないことが認められる。しかし,被申立人は,弁護士と相談する旨の発言に先立って,確認書の内容は限定正職員制度で実現している旨回答しており,団体交渉終了後に弁護士と相談した結果について,メールにより申立人に伝えていることから,回答を拒否したとはいえない。また,限定正職員制度は,有期雇用職員の一部を限定正職員として登用するものであり,限定正職員として採用された職員のうち,少なくとも,業務限定職員については,無期転換が行われていること,採用手続において所属部局の推薦や人事評価が考慮されていることから,被申立人が確認書を無視しているとまではいえない。

よって,確認書に関する被申立人の対応は,誠実交渉義務に違反するものとはいえず,労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するとはいえない。

(2)雇止めが発生するため,申立人が,約10日後に緊急の団体交渉を行うよう被申立人に求めたのに対して,被申立人が申立人の希望日より約2週間後の日程であれば応じると回答したことは,労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。

被申立人は,団体交渉が決裂した日を基準に,申立人が,約半年間,団体交渉の開催を求めていないことから,団体交渉開催の緊急性がなかった旨を主張しているが,申立人が団体交渉開催を求めたのは,業務限定職員(一般)の採用試験の合格率が申立人の想定より低かったことが原因であると認められるところ,被申立人が申立人に限定正職員採用試験の合格者数等を示した日を基準に考えれば,申立人は,その日から約2週間後に団体交渉を申し入れており,申立人が団体交渉の申入れを怠っていたとまでは認められず,団体交渉開催の緊急性がなかったとまではいえない。

もっとも,申立人の申入れ日から申立人の希望日までは休日も含めて10日程度しかなかったこと,被申立人には他の業務があったこと,申立人の希望日から2週間程度の近接した日程を代替日程として提示していること,他の団体交渉と比較して遅延しているとまでは認められないことから,被申立人の対応が明白な引き延ばしであるという申立人の主張は採用できない。

よって,申立人の希望する日程で団体交渉に応じなかった被申立人の対応は,応じられない具体的理由を説明しなかった点で不十分ではあるものの,労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するとはいえない。

(3)申立人が提出した質問要求書に関し,団体交渉において,被申立人はその一部に回答したのみで,質問・要求に対する新たな資料を提供しなかった事実は認められるか。前記事実が認められる場合,そのような対応は,労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。

本件質問要求書のうち,質問というよりは申立人が意見を表明していることを否定できない内容もあり,財務状況以外の事項を記載した理由や質問内容の趣旨を被申立人に説明した事実は認められないことから,被申立人にとって新たな資料要求であると認識できなかった事項があった可能性がある。もっとも,本件質問要求書のうち少なくとも「I」(限定正職員の採用状況等に関する質問)及び「IV-(1)」(大規模な無期転換ができない財務状況に関する質問)については,限定正職員制度の運用実態や被申立人の財務状況に関する質問であり,過去の団体交渉で議論されてきた内容との関連性も認められる。そこで,被申立人が,本件質問要求書のうち「I」及び「IV-1」に対して,団体交渉において,誠実に対応しているかどうかを検討する。

まず,本件質問要求書の「I-1」に関しては,被申立人は,団体交渉で3月末をもって通算雇用期間が満5年となる人数,限定正職員採用試験の受験者数及び合格者数を,申立人に説明していることが認められるが,限定正職員採用試験の応募者数については,受験者数と同一であると考えられると回答しているだけである。申立人が,受験者数とは別に応募者数について,被申立人に質問している趣旨は,前回の団体交渉における申立人の発言から,業務限定職員(特殊)及び目的限定職員の採用試験に応募したにもかかわらず,担当教授や所属部局からの推薦が得られずに受験できなかった人数を確かめる必要があったためであると認められる。そして,被申立人は,前回の団体交渉における申立人の発言や本件質問要求書の「I-2-(4)」(限定正職員採用試験を受験できなかった有期雇用職員がいる旨の記載)などからそのような質問の趣旨については,認識可能であったといえる。それにもかかわらず,単純に受験者数と同一であると考えられるという回答をすることは,申立人の質問に十分に対応しているとはいえない。

他方,団体交渉の1か月後に被申立人が申立人に対して提出した文書(本件文書)によると,被申立人には,本件質問要求書の「I-2」(限定正職員採用試験の合格の基準及び運用に関する質問)や「I-3」(限定正職員に採用することによる処遇の改善に関する質問)について,質問の意図が不明なものや回答できないものがあったことが認められる。しかし,被申立人は,本件質問要求書が提出されてから団体交渉が開催されるまでの約1か月の間,申立人と日程調整を行う機会などを利用して,質問の趣旨を確認することや,回答できない事項がある旨伝達し,団体交渉までの間に団体交渉を円滑に行うための事前調整が可能であったにもかかわらず,これらのことを行っていない。また,団体交渉においても,本件質問要求書に対してまだ用意している回答があるのかという質問が申立人からなされているのだから,被申立人は,用意していた回答があればその場で回答すること,また質問の趣旨が不明なものがあればその機会に質問の趣旨を確認すること,若しくは回答できない質問があれば回答できない旨伝達することが可能であったにもかかわらず,これらのことを行っていない。

さらに,本件質問要求書の「IV-(1)」(大規模な無期転換ができない財務状況に関する質問)に対しては,前記(1)イで当委員会が判断したように,被申立人は十分に説明しておらず,資料提供も十分に行ったとは認められない。

以上のとおり,被申立人は,本件質問要求書のうち質問として合理性を有する事項に対して,適切かつ誠実に対応しているとは認め難く,また新たな資料として提供したものは,限定正職員採用試験の受験者数及び合格者数にすぎないことから,本件質問要求書に対する団体交渉における被申立人の対応は,労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たる。

(4)申立人が提出した質問要求書に関し,被申立人が書面により行った回答は,労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当するか。

本件文書は,申立人が,本件質問要求書に対して即刻文書で回答するように要求したことに対して,被申立人が,本件質問要求書の回答について打合せをできないかと申立人に依頼し,「質問要求項目に対する回答をお持ちするとともに,前回の団体交渉時に回答済みの質問の扱い等,団体交渉の内容を含めて事前にお聞きしたい」とメールで申立人に連絡した上で,交付したものである。このような交付の経緯やメールの文意を踏まえると,被申立人は,申立人に対して,本件文書を正式な回答として提供したものと認められる。そこで,本件文書の内容について検討すると,例えば,被申立人は,本件質問要求書の「I-1-(3)」(限定正職員採用試験の応募者数)に関しては,前記(3)のとおり,十分に説明していないにもかかわらず説明済みであると回答し,本件質問要求書の「I-2-(4)」(限定正職員採用試験を受験できなかった有期雇用職員がいる旨の記載)に関しては,従前の団体交渉において申立人がその状況を説明しているにもかかわらず,状況を確認していないと回答している。

確かに,申立人は被申立人に対し,回答できない理由を検討中であることを記載する程度で良い旨述べ,速やかに回答するよう求めていることから,簡易なものでも良いから,ともかく回答することを優先するよう求められていると被申立人が理解した可能性がある。しかし,そのことを前提にしたとしても,前記(3)で判断したとおり,被申立人は,本件質問要求書に対して,団体交渉で十分に対応していないし,その1か月後(本件質問要求書提出から約2か月後)においても,被申立人は,本件文書により,何ら具体的な情報提供を行っていない。

これらの経緯を考慮すると,本件文書による回答だけでは,本件質問要求書に対する回答として不十分であり,不誠実なものであるといわざるを得ない。よって,被申立人の本件文書による回答は,本件質問要求書に対して誠意をもって対応したとはいえず,労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たる。

お問い合わせ先

労働委員会事務局審査調整課 審査班

宮城県仙台市青葉区本町3丁目8番1号(宮城県庁17階北側)

電話番号:022-211-3782,3786

ファックス番号:022-211-3799

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