宮城労委平成12年(不)第7号事件
平成15年7月7日命令書交付
(この命令は労働組合法に基づく和解の認定により失効しています。)
<中央労働委員会関係命令・裁判例データベース>
労働委員会命令データベース(https://www.mhlw.go.jp/churoi/meirei_db/mei/m03637.html)(外部サイトへリンク)
1.事件の概要
X1組合,X2組合及びX3組合並びに組合員X4,同X5及び同X6は,Y会社が,従業員であるX4,X5及びX6(X4ら)の各組合員に対し,一時金を減額したこと及び退職を勧奨したこと等が,労働組合法第7条第1号(不利益取扱い)及び第3号(支配介入)に該当する不当労働行為であるとして,平成8年9月,当委員会に救済申立て(平成8年(不)第3号事件。前件。)を行い,平成11年8月,当委員会は棄却命令を発した。
本件は,Y会社が前件結審以降,
(1)X4らに対し退職勧奨を続けていること,
(2)組合の団体交渉申入れを拒否し,又はこれに誠実に対応しないこと,
(3)申立人らが中央労働委員会(中労委)に前件の再審査を申し立てると,X4らの平成11年年末一時金を不支給としたこと,
(4)X4らに対し,平成11年のベアをゼロとし期末,夏期の各一時金を不支給としたこと及び平成12年のベアをゼロとし期末,夏期,年末の各一時金を不支給としたことが,労働組合法第7条第1号(不利益取扱い)ないし第4号(報復的不利益取扱い)に該当する不当労働行為であるとして争われた事件である。
2.命令主文の要旨
- 会社はX4らに,平成11,12年の年末一時金として,各年本俸の2.5か月分を支払わねばならない。
- 会社は組合との間で,X4らの業務内容及び平成12年のベア,期末一時金,夏期一時金に関し,経理資料を提示し,誠意をもって団体交渉を行わねばならない。
- 平成11年のベア,期末一時金,夏期一時金に関する申立てを却下する。
- その余の申立てを棄却する。
3判断の要旨
(1)除斥期間について
- 上記1(4)の行為のうち,平成11年のベアゼロ,期末,夏期の各一時金不支給は,申立て1年前までに行われたものであり,除斥期間の故に却下すべきである。
- 上記1(1)(2)の行為は,本件救済申立ての1年前までに行われたものが含まれるが,これらの行為によって表象され申立時において継続すると主張する不当な退職勧奨や団交拒否を対象とするものであるから,継続する行為の一環として考慮対象とする。
(2)退職勧奨について
- A放送の報道体制に対応すべく勤務体制を整備を図っていた会社は,人件費増加等により将来的に退職金を支払えるか憂慮していたところ,割増手当及び夜間早朝勤務廃止を度々要求するX4らでは,継続対応が難しいとして,より安価で確実に対応できる労働力を他者に求めたのものであり,派遣社員導入により24時間体制が必要なCG室からX4らを排除した。
- 会社社長らが,休日で家にいたX6を飲食店に呼び出し,「辞めてもらいたい。」等と述べたことは,上記会話が行われた日時や場所,X6が飲食していないこと等の状況から,会社がX6に退職を迫る意図で行ったものである。
- 会社社長のX4に対する「希望退職者を求める」等の発言について,分会が文書で出すよう求めたのに応じ,会社は全従業員に対し,希望退職者に退職金を上積みする旨記載した退職金支給額計算書を配布したが,これらの行為は,X4らを含む従業員に対して退職を勧奨するものであった。
- 会社社長がX6に命じたBテレビへの在籍出向は,給与や待遇等に具体性がなく,会社及びBテレビに必要性があったかについても疑問があり,X6に対する嫌がらせ的な要素の強い命令であったことが窺われる。その後,当該出向の話が立ち消えになったこと等も考慮すれば,会社がX6の退職を期待し行った行為である。
- 以上のように,平成4年から平成6年頃にかけて,会社は,X4らの退職を期待して,様々な形で退職を勧奨していた。本件結審時においても,希望退職者への退職金上積み提案は撤回されておらず,また,一時金不支給,ベアゼロ,X4らをフリップ・テロップ部門の担当とさせている状況は続いており,これらは,間接的に退職を勧奨するものであり,不当労働行為に当たる疑いがある。
- しかし,その後,本件結審時までの間,直截な退職勧奨行為は行われていないこと,また,上記の間接的には退職勧奨に当たる行為のうち,希望退職者への退職金上積み提案は通常行われている正当な行為であり不当労働行為として救済すべき特段の事情は認められない。一時金不支給,ベアゼロ及びX4らの業務内容に関しては,上記2(1)(2)のとおり命ずるのが妥当であり,申立人らが求める「退職勧奨(依願退職攻撃)を撤回しなければならない。」という命令は相当ではない。
(3)賃金及び一時金について
平成12年のベア,期末一時金及び夏期一時金について
X4らの担当するフリップ・テロップ部門の売上げは年々減少しており,その原因は他社との競合及びA放送の自主制作番組減少にあると認められるものの,会社の経営悪化については,会社が資料提出に協力的でなかったこと等により不明である。会社の経営状態等によっては,一時金不支給等が合理性をもつこともあり得るが,そのような決定をする場合,会社はX4らに具体的根拠に基づき合理性を説明する義務がある。しかし,会社は団体交渉に誠実に対応しておらず,説明義務を果たしていないため,労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。
この点の救済方法は,上記2第2項に示すような団体交渉を命ずるの妥当である。
平成11年年末一時金及び平成12年年末一時金について
賃金及び一時金をめぐる事情について,本件と前件を比較した場合の最も大きな差異は,会社が,前件では,年末一時金として本俸の2.5か月分を支給する旨回答をしていたのに,本件では,その年末一時金をも不支給とした点である。
そして,前件では会社社長が,長期的展望として一時金は年額2.5か月分が妥当と述べており,実際,会社は組合に対し,平成7年から平成10年まで年末一時金として2.5か月分を支給する旨回答していたこと,前件と本件とでは,会社の経営状態等一時金支給に影響を及ぼすべき事情に大きな変化はないこと,年末一時金不支給に際し,会社は組合に,経理状況等合理的理由を説明していないこと等の事情を総合考慮すれば,この年末一時金の不支給措置は,合理的範囲を逸脱しており,後記(4)の団体交渉の経過等に照らすと,X4らの組合活動を嫌悪して行われたものと解され,労組法第7条第3号の不当労働行為に該当する。
申立人らは,年末一時金として「本俸×3.55+家族手当×1.0+資格手当×2.0」の支払を求めているが,本件における救済としては,上記2第1項のとおり,当該年の本俸の2.5か月分に相当する金員の支払を命ずることが妥当である。
なお,申立人らは,平成11年年末一時金の不支給が,中労委に前件再審査申立てを行ったことへの報復措置だと主張するが,これらの間には,後者が前者の報復措置であると言えるような直接の関連があるとは考えられず,また,前述のとおり,労働組合法第7条第3号の不当労働行為として救済すれば足りる。
(4)不誠実団交について
- これまでの団体交渉の経過に照らすと,X4らの賃金等に関し組合が申し入れた団体交渉の要求に,会社が誠意をもって応じてきたとは到底言えない。
- すなわち,前件結審後から本件申立てまでの約2年間,組合からの20回にわたる団体交渉の申入れに対して,会社が応じたのは3回であり,それ以外は,拒否したり,一時金不支給等の合理的理由を説明することなく結論のみ文書で回答しており,これらの団体交渉拒否について正当な理由はない。
- また,開催された3回の団体交渉においても,会社は,賃金等について一方的に回答を述べるのみで,組合からの説明要求にもかかわらず,会社全体の経営状況について合理的な説明をする努力をしていない。
- 以上のように,会社は,誠実に団体交渉をすることを正当な理由なく拒否しており,これは労働組合法第7条第2号の不当労働行為に当たる。
救済方法としては,上記2第2項のとおり,X4らの賃金,一時金及びX4らの業務内容について,誠実に団体交渉をすることを命ずるのが妥当である。