普及に移す技術第89号/参考資料6
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参考資料(平成25年度)
分類名〔水稲・草地飼料〕
飼料用稲収穫後の不耕起による漏生イネの抑制
飼料用稲収穫後の不耕起による漏生イネの抑制(PDF:204KB)
宮城県古川農業試験場
1 取り上げた理由
近年,イネホールクロップサイレージ(以下,イネWCS)への取り組みが拡大し,今後飼料用稲専用品種の導入も増加することが期待される。しかし,イネWCSでは適期である黄熟期に収穫する場合でも大量のこぼれ籾が圃場に落下するため,越冬籾を発生源とした後作における漏生イネへの懸念が専用品種導入の妨げとなっている。そこで,耕種的対策を検討したところ収穫後の耕起を行わないこと(以下、不耕起)が翌年の漏生イネの抑制に有効であることを明らかにしたので参考資料とする。
2 参考資料
- 1)飼料用稲専用品種「ホシアオバ」は収穫後に不耕起とすると,土壌表面が乾燥する条件ではこぼれ籾の越冬前の腐敗が促進され,生存越冬する可能性のある稔実籾の割合が低下する。ただし,降雨等により土壌が湿潤な状態が続く場合にはこの不耕起による効果は期待できない(図1)。
- 2)飼料用稲の収穫後に圃場を不耕起とすると,後作での漏生イネの発生は除草剤を使用した場合であってもさらに減少する傾向がある(図2)。
- 3)中生の飼料用稲専用品種「夢あおば」において,収穫が遅れた場合には、耕起して越冬すると翌春の稔実籾の割合が高まるが,極晩生の「ホシアオバ」と同様に,収穫後は不耕起とすることにより,翌春までの籾の腐敗が促進され,生存越冬する稔実籾の割合が有意に低下する(図3)。
- 4)飼料用稲の収穫時期や品種によらず,秋季に不耕起とした場合には,後作における漏生イネの発生は減少する傾向がある(図4)。
- 5)収穫後不耕起で越冬することで,地域によっては鳥類等による落下種子の摂食による減耗も期待できる(図5)。
- 6)以上から,飼料用稲の後作における漏生対策としては,適期を逃さず飼料用稲を収穫し,圃場を耕起せずに越冬することが有効である。ただし、秋季に土壌表面が湿潤な状態が続くとこの効果は低下するので、収穫後は水尻や暗渠を開放する等、田面に滞水しないように管理することが望ましい。
3 利活用の留意点
- 1)本成果は,秋期に降雨が少なく土壌が乾燥し,冬期の積雪も比較的少ない宮城県大崎市の古川農業試験場内において実施した試験に基づくものである。飼料用稲専用品種を,コンバイン型イネWCS専用収穫機により収穫した後の30a区画圃場での試験結果である。
- 2)翌年に食用水稲品種等を作付けする場合には,直播を避け移植栽培とし,有効な除草剤の使用や立毛での異株抜き取り等の対策も徹底する必要がある。
(問い合わせ先:宮城県古川農業試験場水田利用部 電話0229-26-5106)
4 背景となった主要な試験研究
- 1)研究課題名及び研究期間
東北中部水田地帯における受託組織による飼料イネ生産・給与技術の実証と構築連携システムの確立(えさプロ4系)(平成18~21年度)
- 2)参考データ
図1 越冬前のこぼれ籾の生存状態に及ぼす収穫後の耕起と入水の影響
図2 後作の漏生個体発生に及ぼす収穫後耕起および後作の除草剤処理の影響
図3 越冬後のこぼれ籾の生存状態に及ぼす収穫後の耕起と飼料用稲収穫熟期の影響
- 図4 後作の漏生個体発生に及ぼす収穫後の耕起と飼料用稲収穫熟期の影響
図5 冬季の鳥類の摂食による地表落下種子の減耗
- 3)発表論文等a 関連する普及に移す技術
- a)水田輪作におけるイネWCS専用品種「リーフスター」を用いた漏生イネ対策(第89号普及技術(予定)
- b その他
- a)独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構,飼料用米の生産・給与技術マニュアル<2011年度版>,2飼料用米生産における栽培管理(8)こぼれ種子対策,p82-87
- b)辻本淳一・大川茂範(2008)宮城県の飼料稲栽培後作における漏生個体の防除 第1報ホシアオバの収穫時における落下籾量と漏性特性.日作紀77(別1),p50-51
- c)大川茂範・辻本淳一(2008)宮城県の飼料用稲栽培後作における漏生個体の防除 第2報各種対策の効果とその変動要因について.日作紀77(別1),p52-53
- d)大川茂範・辻本淳一(2008)宮城県の飼料稲栽培後作における漏生個体の防除 第3報秋耕と秋期の湛水および冬期の鳥類による摂食の影響について.日作紀77(別2),p42-43
- e)大川茂範・辻本淳一(2009)宮城県の飼料用稲栽培後作における漏生個体の防除 第4報収穫時期と品種の違いが落下種子の越冬性と漏生に及ぼす影響.日作紀78(別2),p38-39
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