普及に移す技術第89号/参考資料5
選択 一覧に戻る
参考資料(平成25年度)
分類名〔水稲〕
水田難防除雑草の残草要因
水田難防除雑草の残草要因(PDF:214KB)
宮城県古川農業試験場
1 取り上げた理由
特定の水田雑草が残草する原因としては,除草剤の使用法等の個別栽培管理の問題の他,地域毎の農業基盤や水田輪作等の土地利用も大きく影響していると考えられている。そこで,宮城県の全域より収集した水稲作の残草事例について草種毎にその特性を解析したところ,各草種の残草リスクを高める要因が明らかになった。また,県内の水田輪作地域をモデルとして,水稲作および大豆作の残草状況を3カ年追跡調査することで,当年水稲作の残草に及ばす前作,前々作の水稲・大豆作での残草の影響程度を評価したので参考資料とする。
2 参考資料
- 1)水稲作における残草事例の栽培管理履歴を基にした解析によると,水田輪作に取り組む圃場では取り組まない圃場に比べて,イヌビエが3.9倍残草しやすく,水稲作で作業委託されている圃場では作業委託されていない圃場よりも2.1倍クサネムが残草しやすい。また,除草剤の使用回数が少なく散布時期が遅い水稲作圃場ではイヌホタルイが残草しやすく,逆に除草剤の散布時期が早いとタイヌビエが残草しやすい(表1)。すなわち、圃場の利用履歴により注意すべき雑草種があることと、除草剤の使用法の改善が残草対策になりうることが推察される。
- 2)同じく残草圃場を含む農業集落の特徴を基にした解析によると,農業従事者率が高い農業集落の水稲作圃場ではイヌビエ,イヌホタルイが残草しやすく,貸付耕地率が高い集落ではミズアオイ,オモダカ等が残草しやすい(表2)。すなわち,前者には管理方法(除草剤の種類や使用時期・使用方法等)との関係,後者には管理労力の不足との関係があることが推察される。
- 3)同一地域内の水田であっても、3年以上水稲が連作されている圃場に比べ、2年以内に大豆が作付けされていた圃場ではノビエ,ホタルイを中心とした残草が目立つ。前年に大豆が作付けされた圃場の水稲作では、アメリカセンダングサ,タウコギの残草が前々年大豆作の圃場よりも多い(図1)。
- 4)これらの草種を含めた田畑共通雑草について、当年水稲作の残草に及ぼす前々年と前年の残草の影響について3カ年の追跡調査を基にした解析によると,水稲3連作と復元2年目(水稲2連作)は共に,前々作よりも前作の影響をより大きく受けるが,復元2年目での前々作(大豆作)の影響は水稲作の影響に比べ極めて小さい。一方,復元1年目の圃場では前々年水稲作の影響が大きくなるが,これと同程度に前年大豆作での残草の影響も大きく受ける(図2)。すなわち,水田輪作地帯においては,大豆作・水稲作において同等程度の雑草管理を行わなければ、田畑共通雑草を中心とした残草が増加し続けることになる。
- 5)以上の事例のように、多数の残草事例を集めその特徴を調査することにより,問題雑草種毎に残草要因を探索することができ,防除対策の指針が示される。また、特定の残草要因に注目してモデル地域の残草状況を詳しく調査することで、具体的な雑草管理の目標値を設定することも可能となる(図3)。
3 利活用の留意点
- 1)残草事例は7月~9月に実施した県内全域の巡回調査において特定雑草種の残草が見られた圃場をランダムに抽出して調査対象圃場とした。各市町村、農業委員会および土地改良区に照会することで圃場管理者を特定し、各JAが管理している栽培管理履歴記録簿を基に管理状況を調査した。
- 2)地域内で特定の雑草が多発する場合には発生草種にあわせた有効な除草体系を選択する。
(問い合わせ先:宮城県古川農業試験場水田利用部 電話0229-26-5106)
4 背景となった主要な試験研究
- 1)研究課題名及び研究期間
- a「環境保全型水稲栽培の推進に向けたIWMの実践支援」(平成21~23年度)
- 2)参考データ
表1 難防除雑草発生圃場における各管理項目の関連性
表2 難防除雑草種発生圃場を含む農業集落の特徴
図1 異なる水稲作圃場における各種水田雑草の残草程度
図2 田畑共通雑草の残草量に及ぼす前年・前々年の残草量の影響
図3 残草要因の解析フロー
- 3)発表論文等
- a 関係する普及に移す技術
- a)水稲・大豆水田輪作における雑草発生リスクの変化(第88号参考資料)
- b その他
- a)大川茂範・三上綾子・辻本淳一・平智文・浅井元朗(2012),宮城県の水稲・大豆輪作地帯における雑草発生の実態 - 水稲作・大豆作の相互作用 - ,雑草研究57号(別),p115
- b)大川茂範・平智文(2010),宮城県の水稲栽培圃場における難防除雑草の多発要因 - 圃場管理履歴を基にした解析 - ,雑草研究第55巻(別),p42
- c)大川茂範,平智文,吉田修一(2009),宮城県の水稲栽培圃場における難防除雑草の発生状況 - 草種別の多発要因について - ,雑草研究54号(別),p71
農業系三場所に戻る