普及に移す技術第92号/普及技術8
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普及技術(平成28年度)
分類名〔果樹〕
レッドカーランツの収穫時間が短縮でき安定生産可能な樹形
レッドカーランツの収穫時間が短縮でき安定生産可能な樹形(PDF:376KB)
宮城県農業・園芸総合研究所
1 取り上げた理由
レッドカーランツ栽培において既存の樹形に比べて収穫時間を3割以上削減でき,安定して1a当たり100kg以上の収量が得られる樹形を開発したので普及技術とする。
2 普及技術
- 1)2年生の主軸枝のみで構成されるV字仕立ては,苗木がかるく土を被るように横に寝かせて定植する。定植後2年かけて植栽列1m当たり20本の主軸枝を確保し樹形を完成させる(図1)。
図1 V字仕立てのイメージ
図2 主軸枝6本樹形完成までの流れ
- 2)3年生の主軸枝が3本と2年生の主軸枝が3本で構成される主軸枝6本樹形は苗木定植後,3年かけて樹形を完成させる(図2)。
- 3)主軸枝6本樹形の果実1kgの収穫時間は19.8分であり,慣行樹形の30.7分に比べて収穫時間が36%削減できる(表1)。
- 4)露地栽培したV字仕立ての果実1kgの収穫時間は12.9分で主軸枝6本樹形より短くなる。また,1a当たり収量はV字仕立てでは100.6kg,主軸枝6本樹形では129.9kgとなり,主軸枝6本樹形が優れる(表2)。
- 5)収穫期間に投入できる労働力を2名として試算した栽培可能面積と栽培可能面積当たりの収量はV字仕立てではそれぞれ7.9a,792.8kg,主軸枝6本樹形ではそれぞれ4.0a,521.3kgとなりV字仕立てで多くなる(表2)。
- 6)1a当たりのV字仕立てと主軸枝6本樹形の年間の総労働時間はそれぞれ35.6時間,60.1時間で,V字仕立ては主軸枝6本樹形より41%削減できる(表3)。
- 7)V字仕立ての植栽列1m当たり新梢発生数(翌年の結果枝数)は平成27年が30.3本,平成28年が25.3本となり安定して20本以上の新梢が得られる(表4)。
- 8)樹形の違いが生育,果実糖度,酸度に及ぼす影響はみられない(表5,6)。
- 9)1a当たりの生産費はV字仕立てと主軸枝6本樹形でそれぞれ46,386円,66,813円,果実1kgの生産費はそれぞれ461円/kg,514円/kgとなりV字仕立てが小さい(表7)。
- 10)枝齢2年と3年は発芽率及び花芽着生割合に差がないが,枝齢が4年以上になると発芽率及び花芽の着生が劣る。また,枝齢2年の平均1房重と平均1房着粒数は枝齢3年と4年に比べて優れる(表8)。
3 利活用の留意点
- 1)V字仕立ては洋菓子等の装飾用として形状の優れた果房を出荷する場合や作業性を優先して栽培したい場合に向く樹形であり,株式会社イシドウから購入した品種不明の系統(商品名:赤フサスグリ)に適用可能である。
- 2)主軸枝6本樹形は加工品の原材料として出荷する場合や導入本数が少なく作業性よりも収量性を優先したい場合に向く樹形であり,「ロンドンマーケット」及び株式会社イシドウから購入した品種不明の系統(商品名:赤フサスグリ)に適用可能である。
- 3)レッドカーランツは収穫期間に投入できる労働力を考慮し導入面積を検討する必要がある。
- 4)耕種概要は下記のとおりである。
- a 施肥:樹形完成後,主軸枝6本樹形は毎年3月にCDU果樹化成(15-6-12)を1樹当たり100g施用した。V字仕立ては植栽列1m当たりCDU果樹化成(15-6-12)を100g施用した。
- b 収穫方法:V字仕立ては2年生主軸枝を地際から切り離した後,果実を収穫した。主軸枝6本樹形の3年生主軸枝は地際から切り離してから,2年生主軸枝は切り離さずにその場で収穫した。
(問い合わせ先:宮城県農業・園芸総合研究所園芸栽培部電話022-383-8134)
4 背景となった主要な試験研究
- 1)研究課題名及び研究期間
集落営農における実需者ニーズに対応した加工・業務用野菜生産技術の確立(平成22年)
被災地の早期復興に資する新品種・新技術を利用した果樹生産・利用技術の実証研究(平成24年~平成28年)
- 2)参考データ
表1 樹形の違いが収量及び収穫時間に及ぼす影響(平成24年~平成26年)
表2 樹形の違いが収量及び収穫時間に及ぼす影響(平成27年~平成28年)
表3 樹形の違いが1a当たりの作業時間に及ぼす影響(平成27年~平成28年)
表4 年次がV字仕立ての植栽列1m当たりの新梢発生に及ぼす影響(平成27年~平成28年)
表5 樹形の違いが生育に及ぼす影響(平成27年~28年)
表6 樹形の違いが糖度および酸度に及ぼす影響(平成27年~平成28年)
表7 露地栽培における樹形ごとの生産費(平成27年~平成28年)
表8 枝齢の違いが発芽率,花芽着生,果房に及ぼす影響(平成22年)
- 3)発表論文等
- a関連する普及に移す技術
- a)レッドカーランツの収穫時間が短縮できる省力的な樹形(第88号参考資料)
- b)レッドカーランツの収穫時間が短縮できる省力的な樹形(第2報)(第90号参考資料)
- bその他
- a)柴田昌人・池田裕章・田口久美子・菊地秀喜(2012),レッドカーランツの収穫時間が短縮できる省力的な樹形,東北農業研究,研究成果情報
- b)柴田昌人・池田裕章・田口久美子・菊地秀喜(2013),レッドカーランツの収穫時間が短縮できる省力的な樹形,東北農業研究第66号,p109-110
- 4)共同研究機関なし
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