普及に移す技術第92号/普及技術6
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普及技術(平成28年度)
分類名〔野菜〕
イチゴのクラウン温度制御を用いた作期拡大と増収技術
イチゴのクラウン温度制御を用いた作期拡大と増収技術(PDF:431KB)
宮城県農業・園芸総合研究所
1 取り上げた理由
復興地域ではイチゴの高位安定生産を早期に確立するため,新たな技術の導入と展開が図られている。これまで宮城県においてクラウン温度制御技術を利用することで,生育が促進され収量が増加することが明らかとなっている(平成26年度普及に移す技術参考資料)。さらに安定した収量の確保と作期拡大を目的として,品種毎の定植時期,クラウン加温時間及び翌春冷却の検討を行い,体系化したので普及技術とする。
2 普及技術
- 1)作型
宮城県内でのクラウン温度制御を組み合わせた作型を図1に示す。夜冷短日処理を行った苗を「もういっこ」では8月下旬に定植する。「とちおとめ」では8月中旬に定植する(表1)。
図1 宮城県におけるクラウン温度制御を組合せた作型
- 2)クラウン温度制御・冷却期定植日~10月上旬定植日から20℃程度の冷水でクラウン部を冷却すると第1次腋花房の分化が早まり,花房間葉数が減少する(表2)。頂花房の果実の痩果数及び1果重が増加し,果実肥大が促進され,年内収量が増加する(表3,図2,図3)。
- 3)クラウン温度制御・加温期11月上旬~翌年2月下旬第1次腋花房の分化確認後,クラウン部を20℃程度の温水で加温すると厳冬期の展葉が早まる(表4)。また,ハウス内最低温度を5℃程度に下げた場合でも,クラウン部の加温により草高が維持され収量の一時的な低下が軽減される(図4,図5)。クラウン部の加温時間は24時間で効果が得られるが,加温時間を16時間(4時30分~20時30分)に短縮しても草高と収量は24時間加温と同等になる(図6,図7)。
- 4)クラウン温度制御・翌春冷却期3月上旬~収穫終了時3月中旬頃ハウス内温度が高まる時期に20℃程度の冷水でクラウン部を冷却すると,春先の果実の1果重および果数が増加し,3月~6月の収量が増加する(表3,図8,図9)。
3 利活用の留意点
- 1)試験に使用したチューブは,ポリエチレンチューブ(ネタフィム社製外径16mm;以下PEチューブ)である。現地実証試験から,クラウン温度制御に用いるPEチューブの出入り口付近での温度差は小さく,大規模ハウスにおけるクラウン温度制御に利用可能である。(図10)
- 2)クラウン部に設置するチューブは必ずクラウン部に接触するように固定する。
- 3)現地実証試験で使用したクラウン温度制御システムは,冷温水の熱源として空冷式ヒートポンプチラーに循環ポンプを接続し,冷温水を貯める貯水タンク,循環供給する送水ポンプ,クラウン部温度制御用のPEチューブで構成した装置である。設置費用は約1,280千円/10aである。
- 4)現地試験データ等をもとにした経済性の試算値を表5に示す。
(問い合わせ先:宮城県農業・園芸総合研究所園芸栽培部電話022-383-8132)
4 背景となった主要な試験研究
- 1)研究課題名及び研究期間
食料生産地域再生のための先端技術展開事業施設園芸栽培の省力化・高品質化実証研究(平成24~27年度)
- 2)参考データ
表1 クラウン温度制御(冷却)が第1次腋花房開花日と花房間葉数および株当たり年内収量に及ぼす影響(平成26年・所内)
表2 クラウン温度制御が第1次腋花房開花日と花房間葉数に及ぼす影響(平成25~26年・所内)
表3 クラウン温度制御が痩果数と1果重に及ぼす影響(平成25年・所内)
図2 クラウン温度制御がイチゴの生育と収量に及ぼす影響(平成25~26年・所内)
図3 クラウン温度制御が8月下旬定植「もういっこ」の生育と収量に及ぼす影響(平成26~27年・山元町)
表4 クラウン温度制御(加温)が出葉日数に及ぼす影響(平成26年・所内)
図4 クラウン温度制御(加温)が草高に及ぼす影響(平成26年・所内)
図5 クラウン温度制御(加温)が収量に及ぼす影響(平成26年・所内)
図6 クラウン温度制御(加温)時間帯の違いが草高に及ぼす影響(平成26年・山元町)
図7 クラウン温度制御(加温)時間帯の違いが収量に及ぼす影響(平成26年・山元町)
図8 クラウン温度制御(翌春冷却)が3月~6月の収量に及ぼす影響(平成26年・所内)
図9 クラウン温度制御(翌春冷却)が株当たり商品果数に及ぼす影響(平成26年・所内)
図10 出入口付近におけるPEチューブ表面温度の日変化(平成25年・山元町)
表5 実証試験における経営収支(平成26年・山元町)
- 3)発表論文等
- a関連する普及に移す技術
- a)クラウン温度制御による夏秋どりイチゴ栽培の増収技術(第86号普及技術)
- b)イチゴ超促成栽培におけるクラウン温度制御が生育と収量に及ぼす影響(第90号参考資料)
- bその他
- a)高山詩織,小野寺康子,高野岩雄(2014),イチゴ超促成栽培におけるクラウン温度制御が生育と収量に及ぼす影響,園芸学研究第13巻別冊2,p233
- b)高山詩織,鹿野弘(2015),イチゴ高設栽培におけるクラウン加温時間帯の違いが‘もういっこ’の生育と収量に及ぼす影響,園芸学研究第14巻別冊2,p180
- c)後藤直子,本間由紀子,菅野亘,岩崎泰永,高山詩織,鹿野弘(2016),クラウン加温の時間帯と長さがイチゴ‘もういっこ’の生育と収量に及ぼす影響,園芸学研究第15巻別冊1,p132
- 4)共同研究機関
- 農研機構九州・沖縄農業研究センター,農研機構野菜花き部門,岡山大学
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