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掲載日:2017年5月1日

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普及に移す技術第92号/普及技術1

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普及技術(平成28年度)

分類名〔水稲〕

鉄コーティングを用いた水稲湛水直播栽培技術宮城県

鉄コーティングを用いた水稲湛水直播栽培技術宮城県(PDF:586KB)

宮城県古川農業試験場

1 取り上げた理由

鉄コーティングを用いた水稲湛水直播栽培の表面播種(以下,「鉄コーティング直播」)は,平成13年に農研機構西日本農業研究センターで開発された。宮城県では,平成20年頃から栽培が始まり平成28年産の鉄コーティング栽培面積は,直播栽培面積の約64%に当たる約1,442haである。栽培品種は,宮城県の主力奨励品種「ひとめぼれ」が,直播栽培全体の約54%と,主食用品種での直播栽培は約70%を占めているが(農産園芸環境課調べ),苗立ちと倒伏対策が課題である。今回これらに対する技術対策が確立されたので普及技術とする。

2 普及技術

  • 1)鉄コーティング直播において,十分な苗立ちと耐倒伏性が得られ,収量を確保できる宮城県水稲奨励品種は「げんきまる」と「まなむすめ」である(図1~図4)。
  • 2)倒伏程度を2下(ほ場全体に対する稲の倒伏角度が45度以内)とした場合の目標収量,目標生育指標・収量構成要素は以下のとおりである。
    「げんきまる」目標収量550kg/10a,播種量4.5kg/10a,苗立本数90本/平方メートル,平方メートル当たり穂数350本/平方メートル平方メートル当たり籾数33千粒/平方メートル(表1,図5,図7,図9)
    目標収量,目標生育指標,収量構成要素
    表1 目標収量,目標生育指標・収量構成要素
  • 3)ほ場準備
    • aほ場選定
      水稲連作田が望ましく,大豆跡地は,移植栽培より倒伏しやすいので避ける。
    • b漏生イネ対策
      異品種の混入を避けるため,栽培品種は前年産と同一品種とする。特に前年倒伏したほ場は,こぼれ籾が多くなるため,異なる播種の使用を避け移植栽培に変更し,秋の耕起は行わず春耕起とする(図11)。
    • cほ場の均平化
      ほ場の均平程度は,苗立ちや除草剤の効果,稲の生育,収量に大きく影響するので均平化に努める。
      表1 目標収量,目標生育指標・収量構成要素
  • 4)種子予措
    • a種子消毒
      種子は移植栽培に準じて,温湯消毒もしくは薬剤消毒を実施する(「稲作指導指針」参照)。
    • b浸種
      浸種の積算温度は50~60℃程度とする。積算温度が短いと発芽速度が遅くなり,長いと保存期間が短くなる(図12)。催芽した種子は,鉄被膜の酸化乾燥作業中に発生する熱で死滅する可能性があるので用いない。
    • c鉄コーティング作業
      浸漬種子に焼石こうと還元鉄またはプレミックス資材(焼石こうと還元鉄混合資材)を被覆後,仕上に焼石こうで被覆する方法が一般的である。近年,全国農業協同組合連合会で開発特許取得したシリカゲルを用いた方法(仕上時の焼石こうをシリカゲルに変更)では,酸化乾燥処理を省力化でき,鉄粉同士の固着が発生しにくくなるため,選別作業や播種時の詰まりの軽減(表2),被覆資材の剥離減少および熱による発芽率の低下がない(図13)。
    • d鉄コーティング比
      鉄分の乾燥籾に対する被覆比は,0.5倍が鳥害(特にスズメ)に対して効果が高く,被覆比が低くなるほど鳥害が発生しやすくなる(図14)。
    • e保存(普及に移す技術第91号再揭)
      鉄コーティング後の種子は,10℃以下の保冷庫等で保存することで210日間は安定した発芽率と苗立率が得られる。
  • 5)播種
    • a播種準備
      代掻きは,ほ場や土壌条件等により異なるが播種3~4日前頃に終了し,播種時の土壌硬度はやや硬めとする。目安は,ゴルフボールを1m高から落下させた時,ボールが半分以上露出する程度,またはほ場に足跡が残る程度とする。
    • b落水播種:専用播種機による機械播種(点播,条播)
      播種前日~播種日に落水する。ただし,風が強い日や水持ちが悪い圃場の場合,播種作業時に土壌表面が硬くなり,播種機のスリップにより播種量が減少したり,種子が表面で跳ね土壌に密着する前に流亡することがある。逆に土壌表面が柔らかい場合は,種子が土中に潜り発芽・苗立ちが不良となる。
      多目的播種機(施肥,除草剤,殺虫殺菌剤,溝切り)を使用する場合,播種前の点検と試運転,作業中の補給時等に各部位が正常に機能しているかを確認する。特に土壌表面に近い位置にある部位は,水や土壌で排出口が詰まる場合があるので,注意が必要である。
    • c湛水播種:散播(無人ヘリ,動噴等)
      播種前の落水は行わず,水深は10cm程度を目安とする。水深が深い場合,播種後種子が土壌に十分密着できず,風等により種子が風下に吹き流され移動する場合がある。水深が浅い場合,土中に潜り発芽・苗立ちが不良になる場合がある。
    • d播種時期
      直播栽培は,移植栽培の移植日と同じ日に播種すると約7~10日程度生育ステージが遅くなるため,播種晩限が移植栽培の移植晩限よりも早くなる。また,近年高温傾向にあるため,作物の生育ステージが前進化しているが,低温や日照不足等で生育が遅延した場合,出穂が遅れ登熟不良になる可能性があるため,気象データを基にした播種適期時期の目安を参考とする(図2,図15,表3)
    • e苗立ち安定化資材
      「ネバルくん粉末」を播種前の鉄コーティング種子に粉衣させ,播種することで苗立ちが安定する(普及に移す技術第92号)。
  • 6)水管理
    • a播種後
      播種後,種子の流亡を防ぐため,水口に育苗箱等を設置するなど入水時の圧力の軽減を図る。播種時の初期除草剤の効果を保つため,播種後は速やかに入水し7日間湛水後(田面が露出しない場合は,途中からの補水はしないで自然落水させる),浅水管理につとめ出芽・苗立ちを促進させる。本葉1~1.5葉期に再入水し,初中期除草剤を施用し,初期除草剤と同様の水管理とする。
    • b4葉期落水
      4葉期に7日間程度落水状態にすると,倒伏の抵抗性が向上する(図16)。
    • c溝切り
      散播の場合,機械播種と異なり播種時の作溝や播種機による走行溝がないため,初中期除草剤散布前または4葉期落水時に溝切り作業を行う事で,水管理がしやすくなる。
    • d中干し
      移植栽培よりも強めに中干しを行う。

3 利活用の留意点

  • 1)「ひとめぼれ」は鉄コーティングに適さない品種であるが,倒伏程度を2以下(ほ場全体に対する稲の倒伏角度が45度以内)とした場合は,収量500kg/10a,播種量2.5kg/10a前後,苗立本数60本/平方メートル前後,穂数450本/平方メートル,籾数33千粒/平方メートルを目標とする(図6,図8,図10)。
  • 2)除草剤,殺菌剤,殺虫剤の選定は「宮城県農作物病害虫・雑草防除指針」を参照し,農薬使用時は併せて最新の農薬登録状況( 農薬登録情報・速報 (外部サイトへリンク))を確認する。
  • 3)鉄コーティング直播においても,ばか苗病等の発生が確認されていることから種子消毒を行う。
  • 4)鉄コーティング直播の栽培を何らかの原因で中断し,同一ほ場で移植栽培に変更する場合は,特に使用農薬に注意する。

(問い合わせ先:宮城県古川農業試験場水田利用部電話0229-26-5106)

4 背景となった主要な試験研究

  • 1)研究課題名及び研究期間
    食料生産地域再生のための土地利用型営農技術の実証(平成24~平成28年度)
    震災復興に向けた担い手の規模拡大を支援する省力・低コスト・多収栽培技術の確立(平成25~27年度)
    水稲直播栽培における雑草イネ・漏生イネの防除体系の確立と実用化(平成28年度)
  • 2)参考データ
    発芽状況
    図1 各奨励品種の乾燥籾を使用した発芽状況(H24年:室内試験)
    「ひとめぼれ」と「げんきまる」の苗立ち状況
    図2 「ひとめぼれ」と「げんきまる」の鉄コーティング直播における苗立状況(H25~27年:場内)
    倒伏程度
    図3 各奨励品種の鉄コーティング直播における倒伏程度の状況(H26年:場内試験)
    収量と倒伏程度
    図4 奨励品種4品種の鉄コーティング直播における収量と倒伏程度(H22~27年:場内・現地試験)
    「げんきまる」の籾数と収量の関係
    図5 鉄コーティング直播での籾数と収量の関係(げんきまる)(H22~27年:場内・現地試験)
    「ひとめぼれ」の籾数と収量の関係
    図6 鉄コーティング直播での籾数と収量の関係(ひとめぼれ)(H22~27年:場内・現地試験)
    「げんきまる」の苗立ちと穂数の関係
    図7 鉄コーティング直播での苗立と穂数の関係(げんきまる)(H22~27年:場内・現地試験)
    「ひとめぼれ」の苗立ちと穂数の関係
    図8 鉄コーティング直播での苗立と穂数の関係(ひとめぼれ)(H22~27年:場内・現地試験)
    「げんきまる」の播種量と苗立ちの関係
    図9 鉄コーティング直播での播種量と苗立の関係(げんきまる)(H22~27年:場内・現地試験)
    「ひとめぼれ」の播種量と苗立ちの関係
    図10 コーティング直播での播種量と苗立の関係(ひとめぼれ)(H22~27年:場内・現地試験)
    秋の耕種方法の違いによる漏生イネ発生量の変化
    図11 秋の耕起方法の違いによる漏生イネの発生量の変化(H28年:場内試験)
    発芽勢の変化
    図12 浸漬積算温度別の鉄コーティング後における発芽勢の変化
    表2 鉄コーティング方式別の作業と資材費の比較(平成27年)
    鉄コーティング作業と資材費の比較
    発芽率とコーティング後の千粒重
    図13 コーティング方式別の発芽率とコーティング後の千粒重
    被覆比の違いによる鳥害の変化
    図14 鉄コーティングの鉄被覆比の違いによる鳥害発生の変化(H26年:場内試験)
    収量と登熟歩合
    図15 ひとめぼれ」と「げんきまる」の鉄コーティング直播の収量と登熟歩合の変化(H25~27年:場内)
    精玄米重と押倒抵抗値
    図16 鉄コーティング直播における水管理の違いによる精玄米重と押倒抵抗値の変化(H27年:場内)
    表3 中生品種におけるアメダス気温平年値を元にした播種時期の目安
    アメダス気温平年値を元にした播種時期の目安
    播種前から本葉4葉期までの栽培方法
    図17 鉄コーティング直播における播種前から本葉4葉期までの栽培方法
  • 3)発表論文等
    • a関連する普及に移す技術
      • a)水稲種子の温湯浸漬処理による発芽率の品種間差(第89号参考資料)
      • b)水稲直播栽培における鉄コーティング種子の保存可能期間(第91号普及技術)
      • c)「環境保全米」基準に準じた水稲湛水直播栽培(鉄コーティング)(第91号参考資料)
      • d)水稲直播栽培(鉄コーティング)における微生物発酵有機物資材
      • (商品名:ネバルくん粉末)の苗立ち安定化(第92号普及情報)
    • bその他
      • a)平成27年度東北農業研究成果情報(2015)
      • b)菅野博英・白土宏之・佐々木哲・牧原邦充(2015),水稲鉄コーティング湛水直播栽培における種子の保存期間が発芽と苗立ちに及ぼす影響,日作東北支部報58,p27-28
      • c)菅野博英・白土宏之・佐々木哲・牧原邦充(2016),水稲鉄コーティング湛水直播栽培における種子の浸漬時間が発芽に及ぼす影響,日本作物学会東北支部会報59,p21-2.
      • d)菅野博英・白土宏之・牧原邦充・佐々木哲・北川誉紘・門間由美子(2015),水稲鉄コーティング直播栽培における倒伏軽減法の検討第1報品種と播種量の関係,日本作物学会第239回講演要旨,p14.
      • e)菅野博英・白土宏之・牧原邦充・佐々木哲・猪野亮・佐藤泰久(2016),水稲鉄コーティング直播栽培における倒伏軽減法の検討第2報苗立ち後の水管理,日本作物学会第242回講演要旨,p3.
  • 4)共同研究機関
    農研機構東北農業研究センター,(株)クボタ,小泉商事(株)

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