2016年発掘調査情報
復興調査について
1.基本方針
東日本大震災から5年が経過しました。宮城県教育委員会としては,復興事業と埋蔵文化財保護を両立し,高台移転・土地区画整理や復興道路などの復興事業に伴う発掘調査を円滑・迅速に実施,早期終了を目指しております。
2.円滑・迅速な発掘調査のための施策
(1)宮城県発掘調査基準の弾力的な運用
復興事業に限り,遺跡が壊される範囲(平面・深さ)のみを調査対象とします。これにより,盛土施工部分や,下層の調査等を省略することが可能になるため,調査期間の短縮が見込まれます。
(2)調査体制の強化
宮城県教育委員会では,平成24年度より他県市から発掘調査専門職員の協力を得て,調査体制の強化を図っております。平成28年度は5名の支援を受けております。
【平成28年度の調査体制】
*宮城県職員 文化財保護課21,東北歴史博物館1,多賀城跡調査研究所1
*派遣職員(自治法派遣) 山形県 群馬県 新潟県 兵庫県 岡山県
3.主な復興事業に伴う調査
- 復興道路建設事業に伴う調査(三陸沿岸道路・県道等)
- 沿岸市町復興事業に伴う調査(高台移転・土地区画整理等)
- 被災した個人住宅,零細・中小企業の再建事業に伴う調査
- その他復興事業に伴う調査
発掘調査成果・進捗状況
宮城県教育委員会は復興事業に伴う発掘調査を中心に実施または市町に協力しています。平成28年度に実施している遺跡の調査成果・進捗状況は次のとおりです。
A.復興事業に伴う発掘調査
1.石川原遺跡(気仙沼市)
【所在地】気仙沼市本吉石川原
【調査理由】三陸沿岸道路建設
【調査期間】平成28年4月12日~
【調査主体】宮城県教育委員会
【調査担当】宮城県教育庁文化財保護課
【調査面積】約2,400平方メートル
【調査概要】(6月17日)
- 三陸沿岸道路建設に伴う調査で,4月12日に調査に着手しました。
- 調査の結果,縄文時代後期から晩期の土坑・ピットなどが発見されました。
作業風景
縄文時代の土坑検出状況
2.合戦原遺跡(山元町)
【所在地】山元町高瀬字合戦原
【調査理由】防災集団移転促進事業・災害公営住宅整備事業
【調査期間】平成28年4月6日~5月30日
【調査主体】山元町教育委員会
【調査協力】宮城県教育委員会
【調査面積】約100平方メートル
【調査概要】(6月17日)
- 平成26年8月から継続して調査を実施しており,54基の横穴墓が発見されました。昨年度までに横穴墓52基について調査が終了しており,今年度は残る横穴墓2基について,4月6日から調査に着手し,5月20日に終了しました。
13号横穴墓の全景
13号墓の玄室の様子
- 昨年度の調査で横穴墓の玄室奥壁で「線刻画」が発見されました。「線刻画」は壁に線を刻んで絵が描かれたもので,「鳥」や「人」と考えられる様々な図柄が見られます。「線刻画」については,移設保存することとなり,取り出し方法等について検討を重ね,5月に移設作業を行いました。
- 移設作業前の5月1日に,「線刻画」の移設方法等について現地説明会を開催し,約120名の参加がありました。
現地説明会
3.内館館跡ほか(多賀城市)
【所在地】多賀城市南宮ほか
【調査理由】多賀城地区土地改良事業
【調査期間】平成28年4月11日~
【調査主体】多賀城市教育委員会
【調査協力】宮城県教育委員会
【調査面積】約5,500平方メートル
【調査概要】(6月17日)
- 土地改良(ほ場整備)事業に伴うもので,内館館跡,山王遺跡,新田遺跡など8遺跡と係わりがあります。平成27年10月から,内館館跡・山王遺跡・新田遺跡の調査に着手しました。
- 今年度は4月11日から,継続して内館館跡の調査を行っています。
- 調査の結果,室町時代の大規模な堀で囲まれた屋敷跡が発見されました。内部からは,掘立柱建物跡や井戸跡などが検出され,中国製の青磁碗や漆器椀,木製品などが出土しています。
- その他,奈良・平安時代の掘立柱建物跡や畠跡も見つかっています。
- 6月4日に現地説明会を開催し,約120名の参加がありました。
調査状況
4.松葉板碑群(女川町)
【所在地】女川町御前浜字松葉
【調査理由】復興県道改良事業
【調査期間】平成28年5月9日~5月20日
【調査主体】女川町教育委員会
【調査協力】宮城県教育委員会
【調査面積】約122平方メートル
【調査概要】(6月17日)
- 復興県道改良事業に伴う調査で,5月9日~20日に実施しました。
- 松葉板碑群は中世(鎌倉・南北朝・室町時代)の遺跡で,丘陵先端の4ヶ所の平坦面(平場)に板碑が建てられています。今回の調査は,南西に位置する一番上の平坦面が対象で,標高約15mです。
- 調査の結果,中世の板碑が11基発見されました。板碑は海に向かって建てられていたようで,13世紀末~14世紀代のものと考えられます。
- 板碑は粘板岩製で,大半は表面が剥がれていますが,3基で種子,1基で銘文の一部が確認できました。
据えられた板碑
倒れた状態で発見された板碑群
B.通常事業に伴う発掘調査
1.台町遺跡(丸森町)
【所在地】丸森町金山
【調査理由】河川堤防建設事業
【調査期間】平成27年5月9日~
【調査主体】丸森町教育委員会
【調査協力】宮城県教育委員会
【調査面積】約2,300平方メートル
【調査概要】(7月29日)
- 昨年度に確認調査を行い,遺構が確認された範囲について,5月9日から調査に着手しました。
- 事業予定地の南側から調査を開始しており,縄文時代の貯蔵穴,古代の掘立柱建物跡・溝跡,中近世の掘立柱建物跡などが発見されています。
台町遺跡南側調査区(北から)
台町遺跡南側調査区(南から)
※写真左上の森が県指定史跡台町古墳群