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掲載日:2023年7月13日

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雑草解説(稲作)

「宮城の稲作指導指針(基本編)」等の技術資料に掲載されている水田雑草についての解説です。

雑草解説(水稲作)

草種

タイヌビエ [イネ科ヒエ属] Echinochloa oryzicola(Vasing.)Vasing.

【方言名:クサビエ,ヒエ,ビエ,オニヒエ,オニビエ】

最も代表的な水田雑草。タイヌビエ,イヌビエ,ヒメタイヌビエ等,水田に生育する雑草ヒエ類は「ノビエ」と総称され,除草剤ラベル等でその葉齢が使用時期の目安として標記される。生育量が大きく,多発すると雑草害で減収する。種子の発芽の最低温度は10℃前後で,最適温度は30~35℃。成熟後の種子は休眠状態で発芽せず,晩秋から早春にかけての低温,春期の変温や湛水によって一次休眠から覚めて発芽するようになり,土中で発芽できない場合には夏季の高温と湛水により二次休眠に入る。土中の種子は6~8年間生存し,乾田の耕土下層では10年以上生存する。

防除対策

最も有効な対策は除草剤の適切な使用である。丁寧に代掻きをして漏水がない状態で適切な使用時期に初中期剤を使用する。それでも残草した場合にはシハロホップブチル乳剤やピリミノバックメチル粒剤等のノビエ専用の中・後期剤により追加防除する。なお,シハロホップブチル乳剤については展着剤を加溶することで除草効果が安定する(1)。

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タイヌビエ

イヌビエ [イネ科ヒエ属] Echinochloa crus-galli(L.)P.Beauv.var.crus-galli

【方言名:クサビエ,ヒエ,ビエ,オニヒエ】

発芽時の酸素要求量がタイヌビエより高く,湛水状態では発芽しにくいが畑状態でよく発芽する。畑転換後の復元田での発生が多い。変異が大きく,芒(のぎ)の著しく長いもの,色素により赤紫色を呈するものもある。田面の露出時や落水の条件下などで出芽したものは,その後湛水状態となっても生育する。水田内から畦畔,畑,空き地など土壌の乾燥した場所まで分布する。タイヌビエと比較して,小穂・頴果が小さい。

防除対策

除草剤防除はタイヌビエと同様であるが,特に生育初期に落水管理とならないように気をつける。輪換田の場合,畑転換時に多発すると後作の水稲作でも多発することから,大豆作等の転換時の雑草防除も重要である(1)。

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(1)第88号(平成25年)参考資料4「水稲・大豆水田輪作における雑草発生リスクの変化」(https://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/223232.pdf)(PDF:275KB)

イヌビエ

オオクサキビ [イネ科キビ属] Panicum dichotomiflorum Michx.

乾田直播を継続した水田で問題となっている。乾田状態の水稲播種後に発芽し,イネ出穂期までに草丈1m以上に大型化する。戦後に飼料作物として導入された北アメリカ原産の帰化植物で畑転換田や水田畦畔に普通にみられる。シハロホップ剤の効果が高いが,ビスピリバックナトリウム塩剤では効果が低い(1)。

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オオクサキビ

オオニワホコリ[イネ科スズメガヤ属] Eragrostis pilosa (L.) P. Beauv.

オオクサキビと同様に乾田直播を継続した水田で多発しやすい。しかし草丈は50cm程度でイネの出穂期には目立たない。シハロホップ剤の効果が高いが,ビスピリバックナトリウム塩剤では効果が低い。

オオニワホコリ

エゾノサヤヌカグサ [イネ科サヤヌカグサ属] Leersia oryzoides(L.)Sw.

【方言名:ドジョウツナギ,ヨバイグサ,ハイクサ,ハイグサ】

種子,越冬株,根茎から出芽し,根茎を伸ばして多数の分株を形成する。県内では,畦畔から侵入するものが多いが,本田中央部でも見られる場合がある。茎葉は著しくざらつく。種子発生のものは,除草剤で防除されるが,畦畔から侵入するものや,ちぎれた根茎から再生するものは防除しきれずに繁茂することが多い。本葉2葉以内に効果的な剤を処理する必要がある。アシカキに似るがより直立する傾向があり,葉舌がアシカキよりも不明瞭である。ベンゾビシクロン剤の効果が高い。イネ白葉枯病の中間宿主となる。

アシカキ

アシカキ [イネ科サヤヌカグサ属] Leersia japonica (Honda)Makino ex Honda

【方言名:ヨバイグサ,ハイクサ,ハイグサ】

エゾノサヤヌカグサと同じく匍匐して畦畔から水田内へ侵入するが,より匍匐性が高い。ベンゾビシクロン剤の効果が高く,シハロホップブチル剤の効果が低い。ベンタゾン剤でも強く抑制されることがわかっている。

タマガヤツリ [カヤツリグサ科カヤツリグサ属] Cyperus difformis(L.)

一年生カヤツリグサとして最も一般的に見られる草種。球形の果序が特徴的。幼植物の頃でも紅色に染まった根が出ることで見分けることができる。湛水下では地表下0.5cm以内の浅い層から発生する。種子は湿田土中では10年程度で死滅するが,乾田条件では15年以上生存する。

タマガヤツリ

クログワイ [カヤツリグサ科ハリイ属] Eleocharis kuroguwai Ohwi

【方言名:アブラスゲ,イグサ,イモカラ,イモツル,クワイ,トウシンカラ,トウスンカ

ラ,ピリピリグサ,マルスギ,マルスゲ】

代かき後25日ほどで塊茎から発生する。塊茎の休眠は深く,出芽はきわめて不斉一で長期間に及ぶ。塊茎からの萌芽は深さ30cmの土中からでもみられ,塊茎に数個の芽があって始めの芽が除草剤で防除されても,残った芽から発生する。このため,防除の難しい難防除雑草になっている。発生後,根茎で多数の分株を形成し高さ40~70cmにもなり,秋期に塊茎を形成する。クログワイによる雑草害も,大量発生により大きいことが知られている。その生育量が1平米に200gほどもあると収量は3割減収すると言われている茎は丸く中空で,内部は横の隔膜で仕切られ指でつぶすとパチパチ音がするので,イヌホタルイと区別できる。塊茎は水田土中で5~7年も生存する。

防除対策

クログワイ防除は水稲生育初期に重点をおき,中干し頃まで防除する必要がある。近年一発処理でも多年生雑草への効果の高い「問題雑草一発処理剤」が実用化されており(植調協会ホームページ参照http://japr.or.jp/gijyutu/017.html),クログワイにも有効な剤が紹介されている。プロピリスルフロンやピリミスルファン,メタゾスルフロンといった新規ALS阻害剤や中期剤成分であるベンフレセートの効果が高い。従来型のスルホニルウレア系除草成分を含んだ剤も,クログワイ発生前の処理では水稲生育後期までクログワイを抑制することは難しいが,初期剤と組み合わせて体系処理の後処理としてクログワイ発生始期に散布することで後次発生を抑制することができる(1)。また,田畑輪換や冬作の栽培による耕種的防除効果も大きい。秋季に15cm深以上のロータリ耕やプラウ耕を行い,越冬期間に土壌が乾燥しやすく地温も低下しやすい状態とすることで,土壌中のクログワイ塊茎が死滅しやすくなり,翌春までに1/2~2/3に減少する。

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クログワイ

クログワイ塊茎

コウキヤガラ [カヤツリグサ科ウキヤガラ属] Bolboschoenus koshevnikovii (Litv.ex Zinger)A.E.Kozhenevn

耐塩性が高く沿岸部に多発ほ場が多い。東日本大震災の津波被害後,復旧前の休耕田でも広域に繁茂していることが確認された(1,2)。コウキヤガラによる雑草害も,大量発生することで7割から皆無になるほどの減収になることが知られている。コウキヤガラの発生はミズガヤツリよりも早く,3月下旬からほ場での発生が確認されている。塊茎は非常に硬く寿命は8年以上と長く,乾燥・低温・機械的衝撃に強い。茎の断面は三角形で,高さ40~100cmにもなる。

コウキヤガラに対してはピラクロニルとALS阻害剤を含む一発型除草剤の効果が高く,少量拡散性剤や無人ヘリ散布による省力的な防除も可能となっている(3,4,5,6)。ただし,砂壌土等で水持ちの悪いほ場においてはベンタゾン剤などの中・後期の茎葉処理剤との体系処理が必要な場合も多い。

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コウキヤガラ

コウキヤガラ小穂

ウキヤガラ [カヤツリグサ科ウキヤガラ属] Bolboschoenus fluviatilis (Torr.) Sojak subsp. yagara (Ohwi)T. Koyama

横走する根茎により群生する。茎の断面は三角形で,高さ80~130cmにもなる。本県では,コウキヤガラと異なり内陸部に多発ほ場が点在し,発生始めの防除期を逸したほ場やほ場整備で水路等を取り込んだほ場での多発が確認されている。岩手県では,強害雑草の報告もある。

防除対策

コウキヤガラほど株当たりの塊茎の着生数が多くはないので,数年間手取りすることで完全防除することができる。防除労力軽減のためには発見初期の対応が重要である。畑転換時大豆播種前にグリホサート剤を散布することで,大幅に発生密度を大きく減らした事例がある。

ウキヤガラ

シズイ [カヤツリグサ科フトイ属] Schoenoplectus nipponicus (Makino) Soják

【方言名:サンカク,サンカクスギ,サンカクスゲ】

塊茎から出芽して分株により増殖する,移植後10日ほどから発生を始めるが,中干し時期までだらだらと発生を続ける。シズイが水田に侵入すると,その繁殖力で短期間で蔓延してしまう。1平米当たり1000株も多発した水田で無防除の場合は8割減収し,水稲生育初期の防除で2割の減収にとどめることができるが,移植後55日以降では,5割の減収となる。発生初期はイヌホタルイに似るが,後にはミズガヤツリに類似するが扁平で小さい赤褐色の塊茎の特徴で識別確認できる。葉色はミズガヤツリより淡く,茎の断面は三角形で,高さ40~90cmにもなる。

対策

シズイも防除は水稲生育初期に重点をおく。シズイに有効な初中期剤とベンタゾン剤等の有効な後処理剤とを体系処理する。スルホニルウレア成分を含んだ有効剤と中期の茎葉処理剤との体系防除を3年繰り返すことで完全防除できることが知られている(青森農試)。シズイに登録のある除草剤は,シズイ草丈が3cmまでの使用時期が多いが,これはノビエ2葉期とほぼ同時期である。シズイは塊茎が非常に小さく多量のため,ロータリー等の耕作機械に土壌と共に付着しやすく,ほ場間拡散の原因となるので,多発ほ場の耕起・代掻き等は最後に回す等の予防対策も必要である。

シズイ

イヌホタルイ [カヤツリグサ科フトイ属] Schoenoplectus juncoides (Roxb.) Palla

【方言名:イグサ,スンカラ,トウシンカラ,トウスンカラ,ハナトウシ,ホタルイ,マルスギ,マルスゲ】

県内全域で見られ発生量が多く,生育が盛んな強害雑草である。除草剤の適用草種名としてはホタルイ,タイワンヤマイ等とあわせて単に「ホタルイ」と標記される。代かき時に,水面に黒い種子が無数に浮いていることがあるが,イヌホタルイの種子である場合が多い。水田ではほとんど種子発生であるが,前年に大きな株を残草させた場合など,越冬株からも発生する。本県ではノビエとイヌホタルイの発生から2葉期頃までの葉令進展はほとんど同じであるが,3葉期以降はノビエに先行して葉齢が進む。始めに3~5枚の葉が出た後,花茎を次々と出して株立ちする。草高は30~80cmになる。越冬株から発生したものには,除草剤の効果が劣る場合が多い。種子の発芽は湛水条件下で良好で,気温15℃になると始まり,適温は30℃である。地表下1~2cmからの出芽が多い。土中での種子の寿命は10~20年にも達し,田畑輪換でも死滅しない。また,斑点米被害の原因となるカスミカメムシ類の中間宿主となり,イヌホタルイの発生密度が高い水田ほど,斑点米被害により落等する確率は高まることが知られている(1,2,3)。

対策

本県では北海道に次いで本州で初めてスルホニルウレア系除草剤(以下「SU」という)抵抗性生物型が確認され,県内全域への分布実態も把握されている(4,5,6)。その後,ブロモブチド,ベンゾビシクロン,テフリルトリオン等の「抵抗性対策剤」を含む混合剤が普及すると共に,近年では,このSU抵抗性の主要な遺伝子変異生物型にも効果の高いアセト乳酸合成酵素(以下「ALS」という)阻害剤(SUもALS阻害剤のひとつ)として,プロピリスルフロン,ピリミスルファン,メタゾスルフロン等の新規ALS阻害剤を基幹成分とした初中期剤や中後期剤も市販されてきた。しかしその後の調査では,これら新規ALS阻害剤に対しても抵抗性を示す生物型(以下「ALS阻害剤交差抵抗性」という)の個体群も県内各地で確認されている。従って,登録上はホタルイに効果がある除草剤であっても,ホタルイへの有効成分がALS阻害剤である場合には,効果が期待できない場合があることに注意が必要である。ALS阻害剤以外でホタルイに有効な上記の対策成分を含む除草剤移用する場合であっても,ほ場の漏水管理や均平代かきの不十分なほ場等,除草剤の効果を十分に発揮させられずに残草する事例も多いので,多発ほ場では基本的な除草剤の使用方法の再確認をおこなう。また,抵抗性対策剤を用いて残草した場合であっても,使用した除草剤にALS阻害剤が含まれる場合には,SU抵抗性・ALS阻害剤交差抵抗性の個体群が残草した可能性が高いので,ALS阻害剤を含む中後期剤の使用は避け,ベンタゾン剤等により追加防除を行い,翌年もALS阻害剤以外の有効剤を基幹にした防除体系を実施する。

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イヌホタルイほ場

イヌホタルイ小穂

ミズガヤツリ [カヤツリグサ科カヤツリグサ属] Cyperus serotinus Rottb.

ミズガヤツリは水稲移植時には既に発生している場合が多く,その雑草害としては,収穫皆無の例もある。しかし,田植後20日以降にミズガヤツリが発生した場合は,収量への影響が小さいことが知られているので,防除は水稲生育初期に重点をおくべきである。

草丈は50~80cmと大型で,細長い根茎により群生する。

防除対策

ミズガヤツリの塊茎を死滅させるためには,生わら鋤込みによる秋耕が良い。また,5月中旬以降の移植として,それ以前に発生したミズガヤツリを非選択性の除草剤で処理することも効果が高い。

コナギ [ミズアオイ科ミズアオイ属] Monochoria vaginalis (Burm. f.) Presl ?var. plantaginea (Roxb.) Solms-Laub.

【方言名:イモグサ,ダブ,ダンブ,ナギ,ナギッコ,ミズナギ】

イネとの窒素吸収の競合により,穂数減をまねき雑草害が大きい。成長すればハート形の葉が特徴的だが,幼植物のうちでも白い根に紫色のものが混じるので確認できる。若いときは葉が細長く,生長すると葉はハート形になる。代かき後の低酸素条件で発芽が良好となる。発芽適温は25~35℃。土壌中での種子の寿命は著しく長く,10年以上になる。乾田条件ではより長期間生存する。本県でもSU抵抗性生物型が確認されている。ブロモブチドとカフェンストロールの組み合わせで効果が高い。

コナギ

ミズアオイ [ミズアオイ科ミズアオイ属] Monochoria korsakowii Regel et Maack

本県では絶滅危惧種であるが,各地の水田で激発が認められる。コナギと混生している場合もある。幼植物では,コナギとの区別が難しいが,花茎で区別ができる。発芽適温は20~30℃で,生育適温はコナギよりも低い。本県で大発生している地域では,SU抵抗性生物型が確認されている。多発した場合,コナギよりも大型であることから大きな雑草害を生じる。

ミズアオイ

イボクサ [ツユクサ科イボクサ属] Murdannia keisak (Hassk.) Hand.-Mazz.

代かきが不十分で露出した田面での発生や畦畔際から葡匐茎をのばし水田内に進入している水田を多く見る。直播田ではほ場内の苗立ち不良部位での繁茂,水持ちの悪い水田で激しい発生も認められる。多発すると水稲が減収するばかりでなく,イボクサの種子が玄米中に混入して落等する事例も知られているので,防除は重要である。

防除対策

水田除草剤の使用法を複数回散布の体系処理から,1回処理に変えた頃から発生が目立ってきている。葉は長さ2~6cmの狭披針形で,基部は鞘状になって茎を抱く。耕種的防除としては,切断茎を湛水した代かき土中に埋め込むと切断茎は全く再生しないことが明らかになっており,湛水直播栽培では代かき時の切断茎の埋め込みが有効である。また,イボクサの発生期に行う播種前の耕起は発生数を著しく減少させる。湛水中からの発芽はほとんど認められないことから,水管理によりある程度発生を抑制できる。ピラゾレートやベンゾビシクロンといった白化剤成分を含む一発剤やプレチラクロール剤の効果が高い。生育の進んだイボクサに対しては,草丈30cmまでであればビスピリバックナトリウム塩液剤で防除可能である。

イボクサ

オモダカ [オモダカ科オモダカ属]  Sagittaria trifolia L.

【方言名:クチアケ,クワイ】

全県的に認められる。種子からも発生するが,主として塊茎からの発生が問題となる。塊茎の休眠は深く,土中5~25cmの深さからも出芽するため発生はばらつき,長期間に及ぶ。出芽後,ウリカワに似た葉が5~8枚出て,その後2~5枚のへら状の葉,次いでやじり葉が出る。やじり葉は特徴的なので区別しやすい。花茎は高さ20~80cmになり,上部の節ごとに緑のがく片,白い花弁をそれぞれ3枚つけた花を3個ずつ輪生する。オモダカが水稲に与える雑草害は,見かけよりも大きいことが知られている。水稲の草丈くらいに成長したオモダカが1平米に20株ほどもあると収量は2割も減収すると言われている。本県はSU抵抗性個体群が各地で確認されており,隣県ではALS阻害剤交差抵抗性やALS遺伝子には変異がないが解毒代謝系が増強されることで除草剤抵抗性を獲得した個体群(非作用点抵抗性;Non-target site resistance:NTSR)も確認されている。

防除対策

オモダカの防除は水稲生育初期に重点をおき,中干し頃まで防除する必要がある。

移植後に出芽してくる塊茎発生個体の発生始めを見逃さず初期剤によって抑草し,続いて水田に発生する他草種にあわせた初中期一発剤や中期剤による体系防除を行うことが望ましい。ベンタゾン剤の効果は高いので,有効な初中期剤により残草した個体は,中干し期にベンタゾン剤により完全に防除する。
また,オモダカには白化剤(ベンゾフェナップ,ベンゾビシクロン,ピラゾレート,ビラゾキシフェン等)やピラクロニルの効果が高いので,これらを含む初期剤と他の発生草種にあわせた初中期剤との体系防除も有効である(1)。
なお,オモダカは湿田・深水環境を好むので,十分な排水対策がなされた水田では,中干しや間断潅水により減少することも知られている。水田土中でのオモダカの塊茎の寿命は1年程度と短いので,秋耕,春耕,水稲生育期の除草剤による防除を組み合わせ数年間の塊茎の再生産を防止することで根絶は可能である。

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オモダカ線形葉

オモダカ

ウリカワ [オモダカ科オモダカ属] Sagittaria pygmaea Miq.

【方言名:イモクサ】

本県では要注目種。まれに見られる。繁殖力が強く密生し,発生田では養分の収奪が大きく,強害草である。株元から葉を叢生し,地中に匐枝をのばし,多数の分株を作る。湛水下では5cm以内の土中から出芽するが,大きな塊茎ではより深い位置からも発生する。出芽後50~60日たつと塊茎形成を始める。花茎は高さ10~30cmになり,白い花を1~2段輪生する。

ウリカワ

ヒルムシロ [ヒルムシロ科ヒルムシロ属] Potamogeton distinctus A. Benn.

【方言名:コバングサ,ビル,ビルゴ,ヒルモ,ビルモ,ビレモ】

まれに見られる。繁殖力が強く,養分の収奪が大きく,田面を覆い尽くす強害草である。土中深くに形成されるりん茎から出芽し,地下茎は土中を這う。地下茎の節から水中茎をだし,下部に披針形の沈水葉,上部に光沢のある浮水葉をつける。浮水葉の葉腋から水面に穂状花序を直立し,黄緑色の小さな花を密につける。花が終わると花序は倒れて水中に沈む。

ヒルムシロ

キカシグサ [ミソハギ科キカシグサ属] Rotala indica (Willd.) Koehne var. uliginosa (Miq.) Koehne

【方言名:アズキグサ,アキホコリ】

多くはないが全県的にみられる。発芽には,ある程度の酸素濃度と光が必要で,表土の撹半や空気中への露出によって田植後1か月くらいが発生期間となる。秋田県ではSU抵抗性生物型が確認されている。新規ALS阻害剤であるトリアファモンは効果が低い。

キカシグサ

アゼナ,アメリカアゼナ,タケトアゼナ [アゼナ科アゼナ属] Lindernia procumbens (Krock.) Borbas,Lindernia dubia (L.) Penn.subsp.majior (Pursh) Penn.,Lindernia dubia (L.) Penn.subsp.dudia

【方言名:コゴメ,オオムシロ,ミゾクサ】

雑草防除の際は区別せず,総称してアゼナ類と呼んでいる。アメリカアゼナ,タケトアゼナは帰化植物である。葉の形,鋸歯の有無で見分けることができる。全県的に大量に発生が認められる。発芽には,ある程度の酸素濃度と光が必要で,じめじめ湿った程度で空気にもふれているような土壌条件が好適である。水田土壌中の種子の寿命は,夏季のみ湛水の乾田条件で長く,埋土後15年を経過しても発芽する。年間湛水の湿田では約5年で少なくなる。全国的にSU抵抗性生物型が確認されている。SU抵抗性生物型が全県に分布しており,ALS阻害剤交差抵抗性個体群の発生も確認されている。プレチラクロール,ペントキサゾン等の効果が高い。

アゼナ

ミゾハコベ [ミゾハコベ科ミゾハコベ属] Elatine triandra Schk. var. pedicellata Krylov

全県的に見られる。茎が二又状に分岐しながら,田面に伏して張り付いたように繁茂する。気温が11~12℃になると出芽する。種子は湿田条件では約8年で死滅するが,乾田条件では15年以上生存する。本県でもSU抵抗性生物型が確認されている。

ミゾハコベ

タカサブロウ [キク科タカサブロウ属] Eclipta prostrata (L.) L.

畦畔際で見られる。高さ70cmから1mを越える。葉は長さ3~10cm,幅0.5~2.5cmの披針形。浅水や落水に伴って発生することが多い。

タウコギ [キク科センダングサ属] Bidens tripartita L.

【方言名:クンショウ】

畦畔付近に多く見られる。高さ1.5mにもなる。刈取られても,再生し種子をつける。開花株を畦畔に放置しておいても種子は成熟してしまう。水田に侵入した種子は,落水条件で出芽し,発芽後は湛水条件でも良く生育する。水田除草剤の使用法を複数回散布の体系処理から,1回処理に変えた頃から発生が目立ってきている。ピラゾスルフロンエチル,ベンタゾン剤の効果が高い。

タウコギ

アメリカセンダングサ [キク科センダングサ属] Bidens frondosa L.

【方言名:バカ,バガ】

畦畔付近に多く見られるが,水田中にも入り込む。高さ1.5mにもなる。タウコギの近縁だが,羽状複葉で葉縁に鋭い鋸歯があるので間違わない。タウコギ同様,種子には先端に芒状の冠毛が2個あって服等によく着く。水田,転作田問わず発生し,被害を与える。大豆転換田で多発すると復元田での発生が問題となるので,大豆作での防除も重要である(1)。ベンタゾン剤の効果が高い。

<関連する「普及に移す技術」>

アメリカセンダングサ

クサネム [マメ科クサネム属] Aeschynomene indica L.

【方言名:ネムチャ,アキホコリ】

全県的にみられる。特にほ場整備後間もないほ場等,過去に休耕期間のあるほ場で多発がみられる。直播栽培等の初期落水期間や中干し期に盛んに発芽する。結実した種子はライスグレーダで選別が困難であるため,異物混入により玄米等級を下げる原因となり大きな被害を与える。

防除対策

ベンタゾンの効果が認められないことに注意する。
2葉期までの処理で,水深を維持することができれば,ピラクロニルとテフリルトリオン等の白化剤の効果が高い(1,2)。ビスピリバックナトリウム塩剤では草丈40cmまで防除可能である。大型化しても比較的容易に抜取ることが可能なので,残草した場合には種子が落下する前に手取りする等の対策も必要である。

<関連する「普及に移す技術」>

クサネム

クサネム種子の玄米への混入

クサネム莢

ヘラオモダカ [オモダカ科サジオモダカ属] Alisma canaliculatum A. Braun et C. D. Bouché

【方言名:オモダカ,クチアケ,ゴボウナギ】

株基部が肥大して越冬するが,種子発生の個体もある。葉がへらのような形になり,根際から束生する。4~5枚までは線形葉で,ウリカワ,コナギに似るが,その後へら状長だ円形となる。葉の間から茎が直立し,輪状に枝が分かれ,その先が枝分かれして白色の花をつける。花茎は30~100cmになる。県内ではSU抵抗性個体が確認されている。

ヘラオモダカ

セリ [セリ科セリ属] Oenanthe javanica (Blume) DC.

【方言名:ノゼリ】

越冬株,ほふく茎が繁殖源であるが,種子繁殖もする。平均気温が10~12℃を越えると,急速に生育する。畦畔からやや多肉質の根茎を伸ばして水田内に侵入し,耕起,代かきなどで切断されても,切断された根茎の節から再生する。繁殖力が強く難防除雑草のひとつ。発生時の幼葉が展開する前に,有効な除草剤を処理する必要がある。

セリ

アオミドロ [ホシミドロ科アオミドロ属] Hydrodictyon reticulatum Lagerh.

【方言名:アオノロ,アオカナ,アオサ,ノロ,ミズアカ,モ*:アオミドロと表層剥離を総称してカナと呼ぶことも。】

水田雑草では,アオミドロ,アミミドロ,フシマダラなど緑藻植物,シャジクモなど車

軸藻植物,ミドリムシなどはミドリムシ植物,表層剥離の主な原因となる藍藻植物を一括して藻類と呼んでいる。大量に発生すると水温の上昇を妨げたり,苗にからみついて生育を阻害する。除草剤の拡散も阻害する。一般に低温の年で曇雨天が続く場合に多く,水温が18~25℃のときにもっとも繁殖する。また,リン酸肥料を多施用したり,土壌中の有機物,窒素成分が多いとき,pHが高いときに発生が盛んになる傾向がある。

アオミドロ

表層剥離

土壌表面から数mm下で藍藻植物や,ケイ藻,接合藻類等の活動により日中の光合成で酸素などの気体が発生し,日射で膨張して土壌表面から藻類が剥離し,表土ごと浮き上がる現象である。苗をなぎ倒したり,除草剤の拡散を著しく阻害するなど害を与える。

表層剥離

漏生イネ・雑草イネ [イネ科イネ属] Oryza sativa L.

「漏生イネ」は前年作付けされたイネの収穫時こぼれ籾に由来するイネであり,前年から作付け品種を変更したほ場では,異品種混入の原因になり,採種ほ場では特に注意が必要である。

「雑草イネ」とは,栽培を目的として水田に移植あるいは播種された栽培イネ以外のイネで,栽培イネとの競合や収穫物への種子の混入等により減収や品質低下などの雑草害をもたらすイネであり,全国的に問題が拡大しつつある(1,2)。栽培品種と異なり籾の脱粒性が高いのが特徴で玄米が赤色を呈するものが多く「赤米」として栽培イネの収穫物に混入して被害を及ぼす場合もある。

防除対策

漏生イネの対策としては,初期剤としてプレチラクロール剤を処理することが有効である。ただし,直播栽培では使用出来ないため,品種が切り替わる場合は移植栽培とすることが基本となる。また「雑草イネ」に有効な除草剤が植調協会から公開されている(3)。また,収穫後越冬前の対策としては石灰窒素(50kg/10a)の施用が有効である。ただし,ほ場の地力に応じて翌作の基肥窒素量の表生が必要である。また,不耕起状態で越冬することで,地表面にあるこぼれ籾を低温や乾燥にさらし,地域によっては野鳥による摂食により,生存越冬する籾が減耗することが期待できる(4)。収穫後、稲わらごと焼却(野焼き)することも有効であるが,消防署への届け出が必要である。「雑草イネ」については,一度まん延すると防除が非常に困難であるため,疑わしいイネの発生があった場合には早期に抜き取ると共に,周辺ほ場や同一耕作者の管理ほ場,作業委託農家の管理ほ場等についても,同様な異株がないか確認することも重要である。

<参考資料・関連する「普及に移す技術」>

雑草イネ

雑草イネ脱粒

お問い合わせ先

古川農業試験場作物栽培部

宮城県大崎市古川大崎字富国88

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