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前近代の絵画は、その時代や地域に特有の文化を前提にして、鑑賞が成り立っていました。百合の花から聖母マリアを、牡丹の花から「富貴」を直ちに連想するような文化を失った現代人には、解説なしに作品を理解することが困難になっています。一方、近代の絵画は、思想や宗教、文学などに関わる内容を排除する方向に展開する一方で、画面中の特定の形に特定の意味をもたせ、全体として奥深い内容を語ろうとする作品も、なお少なくありません。
また、形と意味との対応が、教養として鑑賞者にも共有されていた前近代とは違って、近代では作者の裁量にまかされる傾向が強まったため、制作意図に沿った作品理解を、いっそう難しくしているとも言えます。今回のコレクション散歩では、宮城県美術館の所蔵品の中から、細部をていねいに読み解くことで、鑑賞がより深まるタイプの作品4点を選び、作者の思想内容と照らし合わせながら、詳しく解説します。
[安田靫彦「花の酔」]
講師:庄司 淳一(当館学芸員)
安田靫彦20代後半の制作である《花の酔》。みずみずしく華やぎに満ちた作品です。今回の講座では、細部の吟味をとおして、この作品が桃山時代の風俗に取材した単なる美人画ではなく、ある歴史上の出来事を背景としていることを確かめた上、作中人物がだれかについての試案もお示しします。
[鶴岡政男「人間気化」]
講師:三上満良(当館学芸部長)
戦後美術の記念碑的作品の一つである《人間気化》は、原爆の炸裂によって人が気化・蒸発する一瞬を、段階的なプロセスとして表現した作品です。十字の形に組んだ5枚のカンバスを個別に分析しながら、造形上の革新と現実批判のメッセージを融合しようとする、作者の試みについてお話しします。
[パウル・クレー「綱渡り師」]
講師:小檜山祐幹(当館学芸員)
《綱渡り師》は、ほとんど記号に近いまで単純化した形象ながら、足場に張ったロープの上の軽業師が描いている点で、まさにタイトルのとおりの作品です。他のクレー作品同様、そこに造形表現の一部として込められた寓意について、作者の個人史に即してお話しします。
[平福百穂「猟」]
講師:菅野仁美(当館学芸員)
大正期日本画を代表する優れた作例である《猟》は、歌人でもあった百穂の、絵画による万葉讚歌ともよぶべき作品です。発想のもとになった和歌や、構図の原型である正倉院宝物工芸品の文様などを参照しながら、文学的内容が絵画表現に転化してゆく過程に沿ってお話しします。
INFORMATION
2013年10月5日―26日の各土曜日 午後1時30分から
宮城県美術館アートホール
(佐藤忠良記念館地階)
約90分程度
電話または当館受付にて
Tel:022-221-2111
60名
無料
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